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スーパーアンテナバランの製作
今までのアンテナバラン

 1:1のバランは第1図のように50Ωのダミーロードを接続することによって送信機側からみたインピーダンスは50Ωになるはずです。したがって スミスチャートにSWR特性として表示した場合は周波数の変動に対して常に原点である中央部に点として表わされるはずです。
 本当にそうでしょうか。FCZ研究所で販売していた寺子屋シリーズ#048のアンテナバランについてネットワークアナライザで確かめて見ることにしまし た。第2図にその結果を示します。 なお、表示した目盛は本来のネットワークアナライザの物では読みにくいためSWR目盛に書き換えてあります。


バランの特性ってこんなもの?

 この結果を見てわたしは、「自分の所のバランがこんなひどい特性だったのか」と愕然としました。
 しかし、今までずいぶん沢山のバランのキットを販売してきましたが特にクレームをもらったことはありませんでしたし、私自身もこのバランを使って何らか の支障をきたしたということもありませんでした。
 過去に読んだバランに関する記事の中でも、バランはいかにも理想的なものとして扱われてきており、こういう問題があるという記事を読んだことがありませ んでした。
 そこで、その理由を考えてみました。
 アンテナという物は、例えばダイポールにしてもヘンテナにしても、そのアンテナ自体の中にインピーダンスを合わせることが出来る性質を持っています。し たがってバランの出力が50Ωという数字から少しぐらいずれたとしても、そのずれた数値にインピーダンスを合わせてしまえば送信機側からみたインピーダン スは50Ωになってしまうのではないでしょうか。
 こうして考えてみると、世間一般的にみて「実際に使ってみて特に問題が起きなければ、まあいいか」ですんできてしまったのではないでしょうか。
 それにしても今まで問題にならなかったことは不思議ですね。


徹底的に測定してみる

 ネットワークアナライザなるものの威力というべきでしょうが、気がついてしまったからにはこの問題について少し追及しない訳にはきません。
 バランを作るということはその構造上作業が思いのほか面倒なものですから、いろいろな構造を試験する上での実験の能率化をはかるため、材質は不明なが ら、12-6-4という小型のコア(トロイダルコアはその大きさをこのように、外径-内径-高さを単位mmで表わします)を使ってすることにしました。
 このコアに、0.16φX7本撚りのテフロン線(以下単にテフロン線という)を使って#048のバランと同じように5回巻きのバランを作ってみました。
 このバランの特性を第3図に示します。この場合の性能も#048と大差なく、やっぱり良くないですね。


CとLのバランス

 1:1の強制バランを作るときは3本の線を必ず撚ってから巻かなければなりません(トライファイラ巻き)。これは昔からの言い伝えのようなもので す。しかしなぜ3本の線を撚らなければいけないのでしょうか?
 その理由として3本の線がまったく同じ長さでなければいけないということがあります。しかし、それだけがトライファイラ巻きの理由だとは考えられませ ん。なぜなら3本の線を並列に並べて均一に巻いて行けば3本の線の長さを同じにすることが出来るからです。
 トロイダルコアに巻いた線は当然のことながらインダクタンスを持っています。そして、線と線の間にキャパシタンスをも持っているはずです。このインダク タンスとキャパシタンスの間のバランスを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 もしその考えが正しいのなら3本の線を撚ったトライファイラを3本とか4本とかパラレルにしてバランを巻いてみれば何らかの変化が現われるはずです。
 さきほどの 12-6-4 のコアと、赤、青、地色、3色の0.2mmφのウレタン線をあらかじめハンドドリルを使って撚った3本ツイスト線を複数本パ ラレルにして実験してみました。
 (1) 3本ツイスト線、3本パラ、4回巻き  結果を第4図に示します。トライファイラ単体のときの結果である第3図の特性と比べると格段の進歩がみ られました。期待が持てそうです。
 (2) 3本ツイスト線、3本パラ、5回巻き  結果を第5図に示します。第4図と大体同じ結果と云えそうです。
 (3) 3本ツイスト線、4本パラ、3回巻き  結果を第6図に示します。これだと第4図、5図と大差ありません。性能が良くなったと云ってもこんなも のでしょうか。
 (4) 3本ツイスト線、4本パラ、4回巻き  結果を第7図に示します。これはすごい! 20MHz以下で若干悪くなっていますがそれ以上では 100MHzまでSWR1.2以下という、オリジナルの第3図と比較して素晴しい進歩です。
 (5) 3本ツイスト線、4本パラ、5回巻き  結果を第8図に示します。巻数を増やせば低い周波数で優位になると考えましたが、結果は高い周波数の方 で良い結果が得られたのです。原因は良くわかりません。
 以上の実験結果を元に、3本ツイスト線、4本パラ、4回巻きを標準としてさらに特性の向上を目指すことにしました。


#048でもやってみよう

 上記の実験で3本ツイスト線、4本パラで特性の向上が得られることが判ったので#048のコアである、SB-5Sの22-14-8 を使って同じ 様な結果が得られるか試してみました。3本ツイスト線は 0.16φ、7本撚りのテフロンを3本撚った物を使いました。
 (1) 3本ツイスト線、4本パラ、4回巻き  結果を第9図に示します。50MHzまでだとSWRが1.2以内であり、150MHzでも1.6以内に に収まっているという素晴しい特性が観察されました。これで第6図の結果が再現されたといってよいでしょう。
 (2) 3本ツイスト線、5本パラ、4回巻き  結果を第10図に示します。第8図と比べて若干性能は落ちて来ました。
 以上の実験結果を元に、3本ツイスト線、4本パラ、4回巻きを標準としてさらに特性の向上を目指すことにしました。


インサートロスを測る

 今回実験したアンテナバランについてそのインサートロス(挿入損失)を測ってみることにしました。
 ネットワークアナライザの出力は50Ω不平衡ですからアンテナバランに入力するぶんには何の問題もありません。しかし、アンテナバランの出力は平衡で、 これをそのままネットワークアナライザの不平衡の入力端子に加える訳には行きません。そこで第11図に示すようにもう一つ全く同じバランを作り、それらを シリーズにつないで出力を不平衡として、ネットワークアナライザに入力させます(バランは、平衡から不平衡への変換もできるのです)。
 ここで観察されたインサートロスの値はアンテナバラン2個分の値ですから、その値の1/2をアンテナバランのインサートロスとすれば良い訳です。
 結果は第12図に示すように50MHzで0.5dBという素晴しいものでした。
 50MHzで0.5dBなら144MHzで使えないものでしょうか。レンジを500MHzにしてみたところ150MHzで約1.25dBで、「無理すれ ば使えるかな」といった感じでした。


配線の仕方でもっと良くなる

 第8図の再現性テストをやったときのことです。第13図に示すように第8図と比べて格段に良い結果が得られました。はじめはアッテネータの設定不 良かと思いましたが調べてみてもそれらしいところはありません。
 バランの配線をいじっているうちに表示画面が大きくなったり小さくなったりすることを発見しました。そうした作業の中で、同軸ケーブルとバランの入力の 接続点の間隔を近づけることによってSWRの値を小さくすることが出来ることを発見しました。
 一方、バランの出力側の処理は少しぐらいの変化ではSWRの値にそれほど大きな変化を与えることはありませんでした。


もっと大きなコアでは?

 アンテナバランの定格電力はコアの大きさで決まりますからコアの大きさが大きいほど扱うことの出来る電力は大きくなるのです。
 手元に外径40mmというコアがありました。
 富士電気化学の「K32」という材質で、大きさは40-27-15 という大きなものです。初透磁率が700ありますからアンテナバランには適している と思われます。早速、実験してみました。
 (1) 3本ツイスト線、4本パラ、4回巻き  その結果はまさに「目が点」です。ネットワークアナライザのブラウン管の真ん中に点が1つあるだけなの ですから……。
 もともとバランというものはこういう物のはずだと思っていたのですが、こうして写し出された特性をみると感激ものです。細部を良く見るために感度を 20dB上げて見ました。その結果を第14図に示します。目盛が大分違いますから注意してください。
 5MHzから50MHzまで1.06以内に入り、100MHzでも1.09に入りました。
 さらにバランの入力配線をいじることによって第15図に示すように5MHzから50MHzまでSWR1.02という驚異的な数値を観察できました。


興奮が冷めて…

 標準感度で測定した場合、中央部に点しか表われないというのには興奮しました。しかし、興奮が冷めてくると「もしかしてこの特性は「K32」と 「SB5S」の違いによるものではないかという悪い予感がしてきたのです。そこで#048と同じようにビニル線3本撚りシングル、4回巻きでバランを作 り、測定してみました。結果を第16図に示します。これは第14図とは似ても似つかない物で、悪い予感は払拭され、改めて3本ツイスト線、4本パラ、4回 巻きの威力を再認識しました。

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   #242 スーパーアンテナバラン
      (200W用) の製作

 前置きはこの位にしておいて製作に取りかかることにしましょう。はじめに200W用から説明します。回路図を第17図に示します。
 (1)ケースの工作をします。第18図を参考にして、Mコネクタの穴16φと平衡出力の穴4φをあけます。
 (2)Mコネクタを固定します。あとから振動でゆるむことがありますからしっかり固定してください。スプリングワッシャを第19図に示すようにケースの 外側につけてから、コネクタにプラグを締め付けておいてナットを締めると良く締まります。またMコネクタの固定用のナットは最終的な向きによって蓋が閉ま らないことがありますから注意して下さい。
 (3)A,B,C 3色の電線1.4m(35cmX4)撚って3本ツイスト線を作ります(第20図)。3本撚りの出来ない人は三つ編でも構いません。
 (4)35cmの3本ツイスト線を4本まとめてトロイダルコア(FDK K32 40-27-15)に4回巻きます。
 (5)コイルの端末を第21図に示すように、同じ色のものどうし(AはAどうし、BはBどうし)、被覆を剥がし並列に接続します。
 (6)Aの巻き終わりとBの巻き始め、Bの巻き終わりとCの巻き始めを接続します。
 (7) aをコネクタの中心に、b'cをコネクタのアースラグの位置に持っていき(第22図、但しまだハンダ付けはしない)、平衡出力のa'bとc'を 各々平衡出力のところへ持っていき各々の長さを調整し切断します。
 (8)平衡出力の線の先に圧着端子の2-4を取り付け圧着ペンチで圧着します(第23図)。このとき線の露出部をあまりきつく撚ると圧着端子に入らなく なってしまいますから注意してください。また、圧着ペンチをお持ちでない方はラジオペンチで締めてから半田を流しておいてください。
 (9)コネクタの中心部の穴の部分にaの先端を入れ込み半田付けします。
 (10)次にコネクタのアースラグへの配線をします。
 (11)平衡出力の圧着端子に4mmのビスを通しケースに菊ワッシャとナットで固定します。
 (12)Mコネクタからバランへ入力するラインはショートしない範囲で出来るだけ近づけて配線してください。(SWR特性を良くする秘訣です。)
 (13)出力端子に50Ωの抵抗を取り付け、3.5MHz等、なるべく低い周波数でSWRが下がっていることを確かめて下さい。(第24図、後で説明あ り)
 (14)エポキシ接着剤(2液混合型)を使い防水とねじのゆるみの防止をかねて、コネクタ、ビスナット、および蓋を接着します。

        使用法
 (1) このバランにはぶらさげるためのヒートンのようなものはついていません。その理由は、ヒートンまたはBNCコネクタに同軸ケーブルの全重量がかかり破損す る恐れを回避するためです。
 (2)固定法はケーブルをアンテナ中央の碍子につり下げ、Mコネクタを上にして接続します。
 (3)平衡出力のところは第25図の様な通称「バタフライ」を作り固定します。
 (4)アンテナの調整が終わったら、自己融着テープやグリスを使って防水等に考慮してください。
 (5)使用可能周波数は1.9MHzから50MHzまでです。50MHzにおけるインサートロスは0.5dB程度です。
 (6)本機が扱うことの出来る電力の定格は200Wです。200Wの場合はCWでの連続使用が可能です。但しアンテナのSWRが高いとバランの中で電力 が消費されますので使用できる電力が制限されますから注意してください。
 (7)Mコネクタからバランへ行く配線の間隔を出来るだけ近づけることによってSWR特性を向上させることが出来ます。

<第1図>送信機から見たインピーダンス
<第2図>#048の特性 4回巻
<第3図>12-6-4 3本ツイスト、単、5回巻
<第4図>12-6-4 3本ツイスト、3パラ、4回巻
<第5図>12-6-4 3本ツイスト、3パラ、5回巻
<第6図>12-6-4 3本ツイスト、4パラ、3回巻
<第7図>12-6-4 3本ツイスト、4パラ、4回巻
<第8図>12-6-4 3本ツイスト、4パラ、5回巻
<第9図>SB-5S 22-14-8 
       3本ツイスト、4パラ、4回巻
<第10図>SB-5S 22-14-8
       3本ツイスト、5パラ、4回巻
<第11図>インサートロスの測定法
<第12図>周波数対インサートロス(2つ分)
<第13図>配線の仕方で性能が向上する
<第14図>K-32 40-27-15
       3本ツイスト、4パラ、4回巻
<第15図>配線の仕方で更に良くなる
<第16図>K-32 40-27-15
       単、4回巻(#048と同じ巻き方)
<第17図>スーパーアンテナバラン回路図
<第18図>ケース穴あけ加工図
<第19図>コネクタの取り付け方
<第20図>3本ツイスト線
<第21図>巻線と結線
<第22図>コネクタ芯線の処理
<第23図>出力端子
<第24図>完成前テスト
<第25図>アンテナへの実装法
<第26図>#243ケース穴あけ加工図
<第27図>#243の周波数特性(ケース入り)
<第28図>同軸ケーブルの先を広げて
           51Ωを取り付ける
<第29図>#048の直接特性(ケースなし)
<第30図>#243の直接特性(ケースなし)