ナショナルギャラリー ・ National Gallery of Art , Washington
                                                             
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 アメリカの美術館と言えば、まずニューヨークのメトロポリタン美術館を思い浮かべる人が多
いでしょう。メトロポリタン美術館、通称METは、その規模やコレクション数の多いことで、
アメリカではもっとも知られている美術館と言えるかも知れません。
 一方、米国の首都ワシントンDCにある「National Gallery of Art ・ ナショナルギャラリー」
もMETに劣らず素晴らしい作品がたくさん展示されています。ナショナルギャラリー(国立絵
画館)と言えば、ロンドンのナショナルギャラリー(The National Gallery, London・1824年創
設)が良く知られています。ロンドンのナショナルギャラリーに触発された「メロン氏」が、ナ
ショナルギャラリーの設立を国に働きかけ、1941年、西館が開館されました。ロンドンの絵画館
には、名称に"The"が付いていることでも判るようにこちらが大先輩格になります。しかし、ワ
シントンDCの方も、展示、収集されている絵画については、素晴らしいものがたくさんありま
す。
モール側(南)から見た「ナショナルギャラリー・
National Gallery of Art, Washington」の入口
私がここに行ったのは、アメリカで唯一、ここにしかないダヴィンチの絵画を見たかった

 国立美術館・ワシントンDC、“National Gallery of Art, Washington” (NGA) はそのコレクショ
ン、特に私たち日本人の好きな、ルネッサンスと印象派のコレクション、の豊富さは素晴らしいも
のでした。また、ほかの有名な美術館ほどは混んでいなかったので、私は、心おきなく、ゆっく
りと好きなだけ、好きな画を楽しむことができました。わずか1泊2日で、美術館と航空博物館
を見るというきびしい日程でしたが、それでも、ダヴィンチとラファエロを十分楽しんでワシン
トンを後にしました。私にとって素晴らしい美術の旅でした。
ニューヨークからワシントンDCへ

 2004年5月、ニューヨークに行くことになったとき、このNGAに行くためのプランを考えま
した。ニューヨークからワシントンDCに行くには、飛行機かAmtrakの列車、あるいは
Greyhoundのバスを利用する方法があります。
所要時間 飛行機 1時間強
     Amtrak Accela(特急) 3時間弱   普通 3時間半から4時間
     Greyhound バス 4〜5時間
片道料金 飛行機  安いのから高いのまで種々
     Amtrak Accela 約170ドル 普通 約80ドル
     Greyhound バス  約37ドル
 この例で判るように、時間がたっぷりあって、安く行きたいならバス、早く行きたいなら飛行機
の利用が考えられます。Amtrakは、駅がそれぞれの都心にあり、地下鉄で行けますから、1時
間以上もかかる空港へのアクセス時間を考えると、アセラの時間に合わせて日程を組むことがで
きると、効率的なスケジュールを作れます。
私はニューヨーク・ワシントンDC間を飛行機で往復しました。これは、時間的なことよりも、
アセラの片道料金と同じくらいで往復できる安い飛行機の切符をインターネットで探せたからで
す。
ナショナルギャラリーへ

 旅行者にとって、ワシントンDC市内の移動は地下鉄が判りやすいと思います。地下鉄
(Metrorail)はブルー、イエローなど5路線しかなく、地図や駅名も判りやすく表示されていま
すから利用も簡単です。もっとも、駅から目的の場所までは、ある程度歩かないとならないこと
が前提になりますが。
 「ナショナルギャラリー・NGA」は、「ナショナルモール(通称モール)」と呼ばれているとこ
ろの西側の端にあります。このモールは東西およそ1.5km、南北およそ500mの矩形の形をした公
園のような場所で、東側のはずれの先には国会議事堂、西側の先にはワシントンモニュメントの
タワーが建っています。このモールの中には、スミソニアン協会が運営する「国立航空宇宙博物
館」「国立自然史博物館」「国立アメリカ歴史博物館」などがある「博物館コンプレックス」とで
も呼べるところで、その上どの博物館も入場無料です。

モールの東側には国会議事堂
モールの西側にはワシントンモニュメントタワー
メトロレイルで、ナショナルギャラリーへ

 メトロレイルで、ナショナルギャラリーへ行くには、グリーンラインかイエローラインの
「Archives-Navy Memorial駅」で下りて南西の方に500mほど歩くと「ナショナルギャラリー」
です。
 また、ブルーラインかオレンジラインの「スミソニアン駅」からはおよそ1kmで、この駅は、
「モール」の中程にあるので、地上にでてから周囲を見回すと、目的の方向がすぐ判ります。同
じ路線の「Federal Triangle駅」からもほぼ同じ距離です。
ナショナルギャラリーオブアート“National Gallery of Art, Washington ” (NGA)
ロタンダ

 ナショナルギャラリーは、西館と東館、それに彫刻公園があります。お目当てのヨーロッパ絵
画は西館で展示されています。この建物も、アメリカの多くの美術館同様、非常に大きな規模で、
西館の幅はおよそ250mもあります。展示階は、「Ground floor」と「Main floor」(2階)に別
れていますが、ヨーロッパ絵画は、メインフロワーで展示されています。モール側から階段を上
って入るとこの階になります。入口を入ってすぐが、中央にマーキュリー像のあるロタンダです。
無料の案内パンフレットの表紙はダヴィンチで、売店で買った「案内書」の表紙は
ラファエロが書いた、友人 Bindo Altoviti の肖像画です。(料金は $5.95)
ダヴィンチの「Ginevra de' Benci」ポートレート

 ぜひ見たいレオナルドダヴィンチの「Ginevra de' Benci」は、西館向かって左側の比較的手前
の方の部屋、室番号6にありました!勿論、いきなりこの部屋に行ったのではなく、順番に1番
の部屋から回ったのですが、ここではまずこの絵を紹介しましょう。

 モデルは裕福な銀行家の娘で、およそ16才、婚約したときの記念だろうとのことですが、い
かにも若い女性らしく楚々として、しかもダヴィンチの描いたほかの女性のポートレートの印象
が既に現れていると思います。以前横浜美術館で見た「白貂を抱く貴婦人」の横顔とどこか共通
した印象を受けました、彼女が年を重ねると、白貂の貴婦人になりそうです。ダヴィンチが22
才頃の画だそうですが、室内で描くのが一般的だった当時のポートレートを、屋外でのポートレ
ートで描いたところがダヴィンチの新しい方向だったそうです。およそ40cm四方の小さな画で
すが、強い感銘を受けました。ナショナルギャラリーが配っている「Map and Visitors Guide」
の表紙に使われているのも理解できました。

 案内書には、ダヴィンチのポートレートが2点あると書いてあったので、もう一点をと6番の
部屋を探したのですが最初はどこにあるか判りませんでした。ほかの部屋にあるのかとも思いま
したが、見つからず、諦めて、また6番の部屋に戻って、何気なく、このポートレートの裏にあ
る画を見たら、その画がダヴィンチの2点目でした。ポートレートとあったので、人物像だと思
っていたのですが、ここにあるように、人物画ではなく象徴的な画でした。

「Ginevra de'Benci」の象徴的ポートレート

 美術館の解説では、ベルトに書かれているラテン語は“美は美徳を飾る”という意味で、中央の
松はイタリア語では"ginepro"で彼女の名前を示しているなど、それぞれが彼女の高潔さを象徴
しているそうです。

西館メインフロワーの配置図

 これらの絵画が展示されている、西館のフロワー配置図が、「Map and Visitors Guide」にある
ので、そのメインフロワーの配置図の一部を、案内パンフレットからコピーしました。ダヴィンチの
ポートレートが展示されている6番の部屋を、この図の中に矢印で示しました。

 私が見に行った2004年5月の時は、西館の改装が行われていて、部屋番号29から51までと
70から79迄の部屋が閉鎖されていました。この時「Vermeer」の絵も見られると期待して行っ
たのでしたが、残念ながら、見られませんでした。帰国してからNGAのWebで調べたら、
「Vermeer」を通常展示しているのは部屋番号50Cであいにく改装中だったようです。
 この図で、ロタンダから左側の上半分、部屋番号1から28までが、13世紀から16世紀までの
イタリア、スペインの画家達、ロタンダ右側の上半分、80から93が印象派の部屋です。その他、
特別展示室52番には「Goya」がありました。私のお目当ての絵画がこのフロワーに集中してい
るという、何とも素晴らしい美術館で、はるばるワシントンDCまで行った甲斐ががありました。

NGAのWebで各部屋の展示内容が全部判る

 帰国してから発見したのですが、NGAのWebに、どの部屋には誰のどの画が展示されている
かがこのWebに掲載されています。コレクションの解説はどこの美術館のWebにもありますが、
各部屋の展示がここまで詳細に書いてあるのは余り見たことがありません。
勿論、殆どの画について、その解説、由来などがイメージと共に丁寧に説明してあります。これ
は素晴らしいことで、お目当ての絵画が現在展示されているかどうかもWebで探すことができ
ます。もし、NGAに行く予定のある方は、事前にこの案内を見ることをお勧めします。
 このページを探すには、画のイメージと解説が書いてあるページの一番下の方にある項目の中で
「location」と書いてあるところをクリックします。これでフロワーの配置図になり、その画が
展示されている部屋が表示されます。ほかの部屋を見るには、この配置図で、その部屋をクリッ
クすると、その部屋の展示内容が表示されます。また、この展示内容から、画の解説にも移動で
きるし、「Search」も良くできています。美術館のWebでこれほど詳細で、使いやすいのは素晴
らしいと思います。
(NGAのWebのアドレスは:通常のhttpのあとに  //www.nga.gov/  を入力)
ルネッサンス絵画
第4室
ここには、「Fra Angelico」と「Flippo Lippi」の絵が展示されていました。
この絵は、フラアンジェリコの「The Healing of Palladia
by Saint Cosmas and Satint Damian」です

この絵は、「The Adoration of the Magi・東方
三博士の礼拝」で、フラアンジェリコとフィリッポ
リッピ、二人の合同制作とされているようです。

第7室
ここにはボッティチェリの「Madonna and Child」が展示されていました。

第11室
私が見たときには、エルグレコのこの絵「Saint Ildefonso」は第11室に展示されていましたが、
最近のNGA Webで確認したところ、今は、第28室で展示されているようです。

第17室
私が見たときには、この部屋にベリーニとティティアーノの「The feast of the Gods・神々の祝祭」
が展示されていましたが、現在はウイーン美術史館に貸し出されているようです。


第20室
 ここには、私の大好きなラファエロの聖母子が、部屋のコーナーを挟んで3点も展示してありま
した。その上、写真で判るように鑑賞している人が少ない!なんと贅沢な空間!このコーナーで、
ラファエロの赤と青、優しく、気品のある聖母子を心おきなく鑑賞することができました。ダヴィンチ
と共にNGAでの大収穫でした。
 カウパーとは、イギリスのコレクター「Lord Niccolini Cowper・カウパー卿」がこの2つの画を 
所有し、そのサイズに大小があるためこのように呼ばれているそうです。大きい方の高さが
80.7cm、小さい方が59.5cmです。ラファエロは聖母子の画を30点程も書いたそうで、それぞ
れ、画のテーマや象徴、所有者などの名前を付けて区別しているようです。

The Niccolini-Cowper Madonna ・
ニコライナ-カウパーの聖母子
(カウパーの大きい聖母子)
The Small Cowper Madonna・
カウパーの小さい聖母子
The Alba Madonna・アルバ候の聖母子       ラファエロのコーナー
ここにはラファエロの聖母子が3点も並んでいます、ファエロ
ファンだったら、これで思い残すことはないというでしょう。
手ぶれで焦点がぼけていますが、ラファエロのあいだにある
女性のポートレートは、ギルランダイオの息子
「Ridolfo Ghirlandaio」の「Lucrezia Sommarie」で、彼はポート
レートを描くのに優れていたそうです。


第24室
この部屋には、ティントレットの画が3点ありましたがその内の2点の画です。

「The Conversation of Saint Paul」・パウロの回心 「Doge Alvise Mocenigo and Family before the
Madonna and Child」



 これで、イタリアルネッサンスの絵画の殆どを回ったことになります、このあと第28室にはス
ペインの巨匠「Greco」と、再びティントレットの絵画がありました。

これまで見たのが、西館の左側のルネッサンス絵画画中心のコーナーでした。右側には印象派を
中心にした部屋が続いています。その前に、ロタンダのすぐ右にある第52室にはスペインのも
う一人の巨匠「Goya」が描いたマリアテレサなどのポートレートが何と9点も展示されていまし
た。

風景画の巨匠の部屋
 最近のNGAのWebを見ると、第57室は、あの英国風景画家の巨匠達「コンスタブル」と「タ
ーナー」の部屋で、コンスタブルが1点、ターナーのヴェニスなどが7点も展示されているよう
です!しかし、私は気が付かないで通り過ぎてしまったのかも知れません。残念なことに、
見ていません。第57室から63室までは英国絵画室と書いてあります。私が気づかなかったのか、
当時は改装中だったのかはもう判りません。

19世紀フランス画家達の部屋
 NGAのガイドには、第80室から93室まで、19世紀フランス画家達の部屋と書いてありますが、
勿論そのメインは印象派の絵画です。多くの人達と同様、私も印象派の画も大好きですが、
しかし、もっとも好みの画はルネッサンスと言うことで、印象派の写真はあまり写しませんでし
た。

第81室には「Cezanne」の絵が16点も展示されていました!NGAの資料によると、セザンヌ
は22点所蔵しているようですから、その大半を展示していたことになります。Webで確認した
ところ、現在は第80室に8点展示しているようですから、2004年当時は破格の展示だったのか
も知れません。それにしても、凄い数です。第83室は「Renoir」が7点、「Doga」の画が1点
展示されていましたが、現在はドガはないようです。第84室は「Gauguin」の画が6点、「Gough」
の画が7点も一つの部屋にまとめて展示されていました。現在のWebで確認した数と少し違い
ますが、ともかく、圧倒されるコレクション数です。

第85室は「Monet」の部屋で、この部屋には、私たちにおなじみの睡蓮の咲く池にかかる
「Japanese Footbridge」など9点の画が展示されていました。

モネの「Japanese Footbridge」 モネの「Woman with a Parasol-Madame Monet
and Her Son」

 次の部屋、第86室には、またまた「Renoir」と「Monet」更に「Manet」と「Sisley」が展示さ
れているという、日本では想像もつかない、なんとも豪華な部屋でした。

第88,89室は「Lautrec」の絵が7点、更に「Degas」の画などもありました。

ロートレックの「Marcelle Lender Dancing the Bolero in "Chiperic"」


第90室には、またも「Monet」と「Manet」の絵が展示されていました。第92,93室には「Corot」、
「Fragonard」、「Delacroix」など、多くの画家の画がありました。

 この説明と画を見ていただければ判るように、あの印象派の有名な画家の絵画が、これでもか、
これでもかと各部屋に展示されているのを見るのは壮観で、何とも贅沢な環境に浸っているもの
だと痛感し圧倒されました。この、何十分の一でもが日本でいつでも見られるようにならないも
のだろうかと思いました。

 METを見たときにも感じたことですが、このように素晴らしい絵画が身近な存在にあり、い
つでも見ることができる環境で、子供の時から育ったとしたら、素晴らしい感性を持った人にな
れるのではと思いました。私は、技術が専門の仕事でしたが、技術の仕事であっても美について
の感性は非常に重要だと思っています。特に、歴史の重さに耐えて、現代まで受け継がれている
美のすばらしさを大切にしたいものだと思います。

 このページの説明には、当時私がとったメモの記載のほか、美術館で購入した「National
Gallery of Art, Washington-Map and Guide"の解説書、入場者に無料配布している"Map and
Visitor's Guide"、同じく同美術館のWeb site(//www.nga.gov/)の解説を参考にしました。

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