メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art・MET)
 
 世界には、数え切れないほど多くの美術館があります。ウッフッツイ、ボストン、マドリッドのプラド、ロ
ンドンナショナルギャラリー、ワシントンナショナルギャラリーなど、まだまだ数え切れないほど沢山の素
晴らしい美術館があります。
 その中で、世界の三大美術館といえば、ルーブル、メトロポリタン、エルミタージュを指すことが多いよう
です。これらの美術館はそのコレクション数が200万点とか300万点と言われていて、常時展示しているの
はその内の何分の一だけとのことですが、あまりの多さにただ驚ろいてしまいます。
 私は、2004年に米国オハイオ州デイトンで開催されたハムベンションを見に行ったとき、ニューヨークに寄
りメトロポリタン美術館を訪ねました。ニューヨークに行ったのは1971年以来ですから35年ぶりというお
上りさんの美術館巡りです。71年に行ったのは会社の出張でしたから、移動は全部タクシー、美術館には行
けませんでした。従って、始めてのMETです。
METを5番街から見たところで、未だ開館前のため朝日の影が長くのびています
巨大な建物で全景は入りません
・近場の移動にはバスが便利                                                    

 今回は移動に便利なようにホテルは、タイムズスクェアーの近くの安いところを探し、幸いにグランドセン
トラル駅の近くで、5番街、マディソン街に歩いて行かれる距離でした。そこで移動は殆どバスを使いまし
た。時間的には地下鉄が早いのですが、バスの方が細かく止まるので、あまり歩かないで目的地に行くこと
ができます。i でMetro Cardを買い、その時貰ったバス路線図であらかじめバス路線を調べておきました。
 このようにして、日中はもっぱらバスを利用しました。バスの良い点は、外が見えるので、今どこを走って
いるのかが判り、街の様子も眺められ観光気分が味わえます。また、明るいので、地下鉄より何となく安心
感があります。MetroCardを買っておけば、乗降も簡単です。私は M4 のバスを愛用しました。

M4バスはペンシルベニア駅とクロイスター美術館の間を
結んでいます、この写真はペン駅前の終点にバスが停車
しているところで、32番通りバス停の案内が見えています
日本のバスカードと殆ど同じです

 メトロポリタン美術館に行くにはM4バス(そのほかM1、M2など)に乗り、83 STで下りてセントラル
パークの方に2・3分ほど歩くと、METの正面に着きます。帰りは、METの前から南行きのM4バスで戻
ることができます。

・METに入る

 開場が9:30なので、これに合わせてホテルを出て約15分でMETに着きました。木曜日でしたが、チケッ
ト売場は10名ほどが並んでいるだけで、私はシニアー料金($12が$7)で入場、日本でもこのような割引
があると良いのにと思いながら少し嬉しくなりました。

 METは場所が広いのと、展示品が非常に多いので、短時間で全部を見ることはとても無理です。日本の美
術館とはスケールが桁違いです。私はインターネットと旅行案内書で見たい展示の場所をあらかじめ調べて
おきました。インターネットには日本語の案内があるので大変便利です。

METのURL(英語・日本語)
  
http://www.metmuseum.org/home.asp  
  
http://www.metmuseum.org/visitor/vi_index_japanese.htm


 私は、ヨーロッパ絵画、特にルネッサンス時代の絵画が大好きで、ついでに!印象派も見ようかと思ってい
ました。若い頃はエジプト遺跡も好きでしたが、最近は飽きてしまい!あまり見ていません。しかし、MET
自慢の展示なので、これもついでに!一寸見ようかと考えていました。

 米国に来ると、マクドナルトから建物まで、すべてが大きいので驚きますが、METもそれにもれず超大型
の建物です。地図で建物の横幅をはかってみたら約300mもありました。正確なことは判りませんが、正面
の階段の横幅だけでも40から50mはあるのではないでしょうか。写真ではわかりにくいでしょうが、入口
は階段を40段くらい上ります。この階段だけで高さが5ないし6mはありそうです。
 登ったところがやっと1階の入口です。実は地上階があり、日本で言う1階がMETの地上階になるのです
が、ここでは"Ground Floor"と呼ばれて展示階ではありません。

 展示階は1階と2階です。1階の入口をはいるとまず"The Great Hall"という大広間ですが、アメリカ人が
グレートホールと言うくらいですから、これがまた馬鹿でかい!地図と案内図から凡その寸法を計算したら
横が60mで奥行きが30mになりました。これは、約500坪です!このホールは2階まで吹き抜けになっていて
その中央に八角形の案内所がありました。勿論、ここには日本語の案内パンフがあり、日本語の案内もあ
るそうですが、私の行ったときには日本語のできる人は居ませんでした。ちなみに1階の天井も非常に高い!
何メートルあるか判りませんが、日本のビルの少なくとも2階か3階分の高さはあるでしょう。屋上は5階に
なりますが、ここは5月から秋口まで、天気が良ければRoof Garden Cafeがオープンすると案内書に書いて
ありましたが行き損ないました。セントラルパークが見下ろせるさわやかな場所で夕涼みにはぴったりだろう
と思います。

The Great Hallを2階から見たところで中央に8角形の
案内ブースがあり各国語に対応しています
入館バッジで、日替わりで色が
変わります、同じ日であれば
クロイスターズにも入館できます
・ヨーロッパ絵画部門

 私のお目当てのヨーロッパ絵画部門は2階の奥の正面の部屋です。先ほどの案内所の先にこれまた大
きな幅の広い階段があり、2階に上ります。横にはエスカレーターがありますが、ここは歩いてのぼりました。
 この階段の壁際に、METへの展示品などの寄贈者の名前が沢山刻まれています。
 さて、階段を上りきった正面の展示室がいよいよヨーロッパ絵画の最初の展示室で、“ヴェネティア派
テイェポロの華麗な装飾画”というのは説明にあったもので、私は名前を聞いたことがある程度でよく知り
ません。確かに明るくて華麗な絵でした。ヨーロッパ絵画部門がこのように中央の一番よい場所にあるのは
METでも人気があるからでしょうか。

 案内書によると、このヨーロッパ絵画部門は12世紀から19世紀まで約3000点の絵画が収蔵されているそ
うです。12世紀から18世紀までの展示が2階中央の1番から30番までの部屋、19世紀の展示は南側のA
からN迄の部屋に分かれています。ここには、初期ルネッサンスから盛期ルネッサンス、近代の印象派まで、
夢のような絵画が山ほど展示されています。フェルメールは5点、印象派は200点!もあるそうです。その上、
絵画を遮る柵やロープなどは殆どありませんし、参観者は多いのでしょうが、部屋が広いのでまるで少
数に感じます。自分の気に入った絵の前でゆっくり心ゆくまで見ることができます。日本の美術館の常識か
ら考えると、参観者は居ないようなものだと言ってもよいほどです。
 私の大好きな、ラファエロ、フェルメール、ラ・トウールから、エル・グレコ、ゴヤ、ベラスケス、レンブラント、
ターナーと書ききれないほどの絵画があります。そのほかにも、ロココのフラゴナール、ルイ・ダヴィッド、
印象派のマネ、モネ、ドガ、ルノワールからスーラ、ロートレック、ゴッホ、ゴーギャンとくると、まるで美術
教科書を読んでいるようなものです!誰かが、METは美術百科事典だと言ったそうですが、確かに何でも
あり!でした。この百科事典を全部見るには一月はかかるのでは、その上、脚力を鍛えておかないと
途中でダウンしてしまいそうです。

・12世紀から18世紀ヨーロッパ絵画

 私は、ヨーロッパ絵画の30室を見るだけで、1時過ぎまでかかってしまいました。部屋の配置は、大まか
に右側のひとかたまりと、左側のひとかたまりに分かれています。右側が1番から22番まで右回りに外側
から内側へ螺旋状に配置されていました。23番から30番まではL型に左の方に折れ曲がっていました。
 部屋に展示されている絵画はその年により少し変わるかもしれませんが、私が見たときには1番から8番
までは主にイタリアの12世紀から初期ルネッサンスまでの絵画が展示されていました。
 3番に祭壇画、4番aにフィリッポ・リッピ、7番にお目当てのラファエロの聖母子、8番にティントレットの
ヨハネ伝・供食の奇跡(The miracle of the Loaves and Fishes)、9番にCorreggioのSaints Peter, Martha,
Magdalen, and Leonard、12番にフェルメールが4点展示されていました!

 更に13番にはレンブラントの絵が9点も!14番にはレンブラントとフェルメールの5点目!17番には
エル・グレコと書いてありましたがほかの人の絵で、グレコの絵はなし!22番にはカナレットのサンマルコ
広場。なお、16、18、21番の3部屋は全く展示がなく空き部屋になっていました。
 ラ・トゥールのマグダラのマリアは10番だったように思いますがメモしなかったので?です。
まだまだ、METのほんの入口を垣間見ただけですが、これだけ見ただけでも日本に居たら10年待っても見
られないだけの絵をたんのうしました。特に、日本でも最近人気の高いフェルメールが5点も揃って居るの
は圧巻でした。

 さて、次ぎは23番から30番の部屋を廻りました、23番から25番の3部屋はネーデルランド派で、最初の
23室にはVan Eyckのキリストの磔と最後の審判がありました。この絵は2枚とも同サイズであまり大きく
ありませんがその細かい描写に目を見張りました。24室は祭壇画、25室にはピーテル・ブリューゲルの刈
り入れ人がありました。26室にはDurerの聖母子、28室にはRubens、Van DyckにBruegelが並んでい
ました。ここの最後の部屋30室はボローニャ派のReniの博愛(Charity)?とGuercinoの捕らえられたサム
ソン(Samson Captured by the Philistines)の鮮やかな絵でした。
 なお、絵を見ながら書いたメモを元に書いていますが、専門家ではないので勘違いがあるかも知れませ
んので、その時はご容赦下さい。

ティントレット・供食の奇跡 フェルメール・信仰の寓意


ラファエロ・聖母子 ブリューゲル・刈り取り人


レンブラント・ホメロスの胸像とアリストートルほか
・19世紀ヨーロッパ絵画

 もう一つのお目当ては、19世紀のヨーロッパ絵画で、印象派の巨匠達の絵がたっぷりと見られる部屋です。
 この一群の部屋はMETの建物の南側、即ち向かって左側に位置しています。ここはアルファベットの部屋
番号になっていました。どの部屋に誰の絵が展示してあったかのメモを取らなかったので、何部屋あったか
判りませんが、14か15部屋はあったと思います。

 Goghだけで2部屋を占領しています!この部屋にはゴーギャンの絵もありました。ここはノーカメラで撮
影禁止でした。

 モネは一部屋に作品が12点もあり驚いたところが、次の部屋に入ったら、ここはセザンヌとモネが同室し
ていて、更に第3の部屋にもモネがありました。ところが、4番目の部屋に入ったら、ドガ、ルノワールに
またモネ!ドガの踊り子は2部屋もある!ここにはロートレックが2点一緒に展示してありました。ドガは
更に第3の部屋があり、ここにはマネの絵も一緒にありました。
 ターナーのThe Grand Canalは展示されていなくて、The Ferry Beach and Inn at Saltashが展示されて
いたのは残念でした。係員にどこかに展示されていないのか?と聞きましたが、ありませんでした。貸し出
し中だったのでしょうか。

ブーシェ・The Toilet of Vinusほか ルノワール・シャルパンティエ夫人とその子供たちほか


 途中で昼食を取るために、地下のカフェテリアに下りていったところ、建物の一番奥に三角形の出っ張り
があり、そこがロバート・リーマンコレクションで、2階で見られなかったゴヤの絵が3点、ベラスケスの絵
が7点も、更にブーシェまで展示されているのを発見して感激。ここでスペイン絵画を堪能してから昼食を
食べました。

・エジプト部門

 折角METに来たので、エジプトも見ておこうと、1階の右側にある、エジプト部門も一通り眺めて
きました。案内書に書いてある、デンドール神殿、スフィンクス、ハトシェプスト女王像、メケトラ墓室
からの古代エジプトの生活を記録したミニチュア像の数々などを見ました。私は若い頃の一時期、エジプト
遺跡の資料を限りなく読みあさった時があり、東京で開催されたエジプト展には欠かさず出かけたもので
した。その後次第にエジプト熱が冷めてしまいましたが、METで古代エジプトを見て、以前のことを思い出
しました。

エジプトの石棺と壁画の数々 供物を運ぶ女性 4000年前のエジプトの大臣・メケトラの墓から
出土したミニチュア・葬送の船


 そのほか、オセアニア美術、東洋美術、日本の鎧、楽器部門なども簡単に見て回りましたが、足が疲れて
きたので午後3時前にMETをあとにしました。

・METを見た感想

 いろいろな本や資料を見て、ある程度は予想していましたが、想像以上に建物がでかい!観客が少なくて
ゆっくり鑑賞でき、ドガの踊り子の絵が二部屋にもわたって展示してあるなど、有名な絵がこんなに揃って
いるのには驚きを通り越して言葉もでないほどでした。
 東京の美術展で数点の名画を見て感激していたのはなんとほほえましいささやかな喜びだったのだった
かとあらためて思いました。また、美術が日常生活にこれほど身近に存在していると、小さいときから世界
の優れた美術にふれることができる環境のすばらしさが羨ましく、私がもっと若ければ、毎年でもMETに来
るのだがと思いました。

・METでの写真撮影

 殆どの海外の美術館は、フラッシュと三脚を使わなければ、写真撮影は問題ありません。撮影禁止の場
所には、注意書きがあります。METも同様だと思っていましたので、何枚か写真を写したのですが、どうし
ても手ぶれなどで鮮明な写真が撮れませんでした。ところが、このレポートを書くために、あらためてMET
のインターネット案内を見たら、平日に限り、許可を得れば三脚を使うことができると書いてありましたの
で、また見に行くことがあれば、きれいに写したい絵は許可を貰って三脚で撮影しようかと思っています

2006.4.5

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