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FCZコイルの実質周波数におけるQ |
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FCZコイルという名のコイルが世に誕生したのは1977年4月の事です。 このときのラインナップは、7Sタイプと、10Sタイプの、3.5、7、14、21、28、50、144MHzの各バンド用でした。 その後、1、1.9、5、9、80MHzと種類を増えて行き、また、「軽薄短小」の波に乗って5Sタイプのコイルも発売するようになりました。
このコイルを発売しようと考えたのには次のような背景がありました。
FCZコイルを発売する以前に、私は「ラジオの製作」誌上に、50MHzのAM送信機の記事を書いた事があり、そのキットも発売しておりました。
その回路で使ったコイルはホルマル線を巻いた空芯コイルで、たしか直径8mmに巻くように書いたのでしたが、この記事を読んで送信機を作られたお客さんの何人かから「働かない」という苦情を頂いたのです。
その方々から送られて来た送信機を見て私は驚きました。 そこにあったコイルは、巻き数こそ説明書通りの回数を巻いてあったのですが、直径は何と12mmほどの太さだったのです。 その結果、50MHzではなく28MHzのあたりに同調してしまっていたのでした。
この経験から自作のコイルを使ったキットでは再現性が悪いという事がわかりました。 その頃コイルといえば「TOKOコイル」という時代でしたから早速、TOKOのコイルを採用しようと考えたのですが、自己発振を起こさないためにコイルとコイルの間にブリキ板を入れる必要は空芯コイルの時と同じで、このコイルの採用も画期的な改良とはいえませんでした。
その頃の市場には「シールドケース入りのコイルが欲しい」という要求にもかかわらず、各アマチュアバンドに対応するシールドケース入りのコイルは販売されていませんでした。 しばらく考えた末の結論は、「ないものは作ってしまおう」ということでした。
幸い、その頃部品を納入してもらっていた方からコイル屋さんを紹介して頂き、相談を重ねました。
各アマチュアバンドに対応して、7Sタイプと10Sタイプのコイルを網羅するには当時の資本力では中々大変な事でした。そこで考えた事は「できるだけ沢山の用途に使えるようにして在庫を少なくしよう」という次のような考え方でした。
(1) 同調側のリアクタンスを約200Ωとする。
(2) 同調側のコイルをバランスドモジュレータ用に使えるためにバイファイラ巻(2本の線を同時に巻き込み片方の線の巻初めともう片方の線の巻終わりを合わせて中点とする巻き方)とする。 このため、タップ位置はセンターとなる。
(3) 2次側(巻き線の少ない方)の巻き数は、それにつなぐものをトランジスタだけでなくFETも視野に入れてTOKOのコイルより大きく、リアクタンスで50Ωあたりとする。
というものでした。
当然のことですが、回路の設計にあたっては最適な定数を持つコイルが必要になるわけです。
例えば同調側のタップ位置ですが、このタップにトランジスタのベースを取り付ける時はもっと巻き数の低い位置に取付けなければなりません。普通のトランジスタ回路のコレクタ側に取り付けるときも同じような事がいえます。
受信機のアンテナ回路に取り付けるのなら、2次側の巻き線はもっと少なくする必要があります。ここにトランジスタのベースを取り付ける場合も同じような事がいえます。
しかし、そういった要求にいちいち答えようとすると一つのバンドに少なくても2種類から3種類程度の在庫を持たなければなりません。 要するに妥協の産物であったのです。
理想的な定数ではないコイルでしたが、トランジスタやFETの性能の向上にも助けられて沢山の方に御愛用いただけるようになりました。
最近になりハンダの中に含まれている鉛が健康を害する恐れがある事からFCZコイルにも「鉛フリーハンダ」
の使用が求められるようになりました。 そこで2006年2月生産分から鉛フリーハンダを使用しての生産にふみきりました。
2011年5月25日をもちまして永年御愛用いただきましたFCZコイルでしたが部材の入手が困難に成りましたので残念ながら製造販売をていししました。
(1) 端子1-3間に共振コンデンサを並列に取り付けます。回路図によっては中間タップを省略してあったり、2次巻き線が省略してあったりする事がありますが、共振コンデンサのついているところが1-3間です。
(2) 1番端子と3番端子のどちらをアース側(または電源側)に接続するかという問題がありますが、1-3間はバイファイラ巻していますのでどちらをアースに接続しなければならないという制約はありません。(ただし10S144を除く)
(3) 専用基板を使う実装法 図1の寸法を基準にプリント基板パターンをお描き下さい。
(4) FCZ基板を使う実装法 回路の試作等に向いた使用法です。図2に示すパターンの「FCZトランジスタ基板」を利用すると図3に示すように10Sタイプのコイルをそのまま実装する事が出来ます。 また、07Sタイプコイルを実装したい場合は、コイルの足の部分を折り曲げる必要がありますが、その場合、端子の根元に力が掛かりますと巻き線が断線する事がありますので、リード線を折り曲げる際、根元に力が加わらないように注意して下さい。
(5) 穴あき基板を使う実装法 10Sタイプのコイルの場合、アースラグを折り曲げ、穴の相手いる方向に対して45°ずらす事によって植え込む事が出来ます。アースラグには別にアースからの先をハンダ付けします。 7Sタイプのコイルは少し無理をする事によって穴あき基板に直接植える事が出来ます。この場合もア−スラグは別に取り付けて下さい。
(6) 生基板にハンダ付けする実装法 あまり推賞しませんが生基板に直接ハンダ付けして使用する方もいらっしゃいます。
その場合、10S,07Sタイプで14MHz以上のコイルは逆立ちした形で取り付けてもコアの調整は出来ますが、9MHz以下のコイルはその構造が異なり、調整が出来なくなりますので御注意下さい。
(7) 9MHz以下のコイルは鉄製のマイナスドライバでも調整できますが、14MHz以上のコイルの場合はセラミックドライバの使用をお勧めします。この場合、ドライバのコアに接する部分がコアの凹みにぴったり逢っていないとコアを損傷する可能性が非常に高くなります。 セラミックドライバの先端部を砥石等でコアの凹みに合うように研ぎだしておいて下さい。
いずれにしてもコアは破損し易い素材で出来ていますからその調整にあたっては十分気を付けて行なって下さい。(特に5Sタイプ)
(8) もしコアの凹みの部分を破損してしまっても、反対側から抜き取る事ができれば、反対側にも凹みがありますからコアを上下逆さにしてはめ込む事によって再度使用する事が出来ます。
FCZコイルには一般的なハムバンドコイルの他に、特殊な用途に使うコイルも製造しております。
10mmタイプのIFTとして10M455と10M10.7というものがあります。 10Mの「M」はコイルの中に共振用コンデンサを内蔵している事を意味しています。10M455は455kHzに、10M10.7は10.7MHzに共振しています。
一昔前の455kHzのIFTには黄色、白、黒という色分けがありましたが、トランジスタの性能が向上した現在では特に3種類のコイルを使う事もないので、1種類にまとめました。大体昔の「白」相当と思って下さい。
7Mタイプは、7M450と、7M10.7があります。
7M450は従来の考え方のコイルではなく、セラミックフィルタの前段用に的を絞り、損失を少なくするように2次側のインピーダンスを高くしてあります。従来のIFTと区別するために「450」という表示をしましたが、もちろん455kHzに同調をとる事は可能です。 また、AMステレオ受信機用のIFTとしても最適です。
50MHz用のvxo回路に使うコイルです。図●に示すような使い方をします。ここで使用した「50.6VXO」という水晶はFCZ研究所でVXO用として特に設計したもので、50.8MHz付近から50.4MHz付近まで変化させる事のできる水晶です。(無理すれば50.0MHzあたりまで引張る事が出来ますが周波数的に不安定になりやすいので、50.4MHz付近で止める事をお勧めしています。)(同じ規格で50.2VXOという水晶もあります)
なお、この VXOコイルの設計にあたっては不思議な現象に悩まされましたがその話は別項でお話させて頂きます。
50MHzと28MHzのQRP送信機(100mW-500mW程度)の終段用タンクコイルです。
寺子屋シリーズ#237 50MHzAMオールインワンの回路図(第●図 )を参照して下さい。なお、今のところFinal-28には2次コイルはついていません。その使い方は第●図を参照して下さい。
第●図の#237の場合、ドライバ段のインピーダンスをあわせるために作られたコイルです。 終段入力が300mW程度の終段ドライブに使います。
VFO用のコイルとしてFCZモノバンドコイルを使いますと温度特性が悪いため周波数変動を起こし易くなります。VFOの周波数変動をなくすという事は非常に難しい事ですが、この問題を少しでも緩和させる事ができるようにこのコイルを作りました。5MHzから7MHz程度のVFO用のコイルとしてお使い下さい。
実際に使用した回路を第●図に示します。
クォードレーチャーコイル、
トリファイラコイル
初めにもお話したようにFCZコイルは「汎用」というところに重点をおいて製造してきました。しかし、この「汎用」ということが災いしてアンテナコイルとして使った場合、Qが上がらないという現象に悩まされることがありました。そんな場合、図のようにアンテナとコイルの間にその周波数の共振に使うコンデンサの容量の約2/3程度のコンデンサ(50MHzで10pF位)をシリーズに入れて見て下さい。この処置で全体の感度がおちてしまうのではないかという心配もありますが、感度が下がることはまずありません。
その理由は、アンテナとコイルの結合が浅くなるのですが、その結果、コイルのQが上がり共振電圧が上昇するためだと考えられます。 特に弊害となるような現象は今のところ起きていません。
トランジスタのコレクタ、FETのドレインの負荷としてFCZコイルを使う場合について説明します。
ごく一般的な接続方法で、FCZコイルの中点(2番ピン)にコレクタ(ドレイン)をつなぐ方法です。 この場合電源を1番ピンにつなぐか、3番ピンにつなぐかという問題がありますが、FCZコイルは10S144を除き統べてバイファイラ巻きを採用していますから、1番ピン、3番ピンは同等と見る事ができます。したがってどちらに電源を接続しても構わない事になります。
FCZコイルの2番ピンに電源を接続する方法もあります。 この場合は1番ピンまたは3番ピンにコレクタもしくはドレインをつなぐ事になります。
この方法は、トランジスタが発売された初期の頃、内部の帰還容量が大きくて自己発振を起こし易かったのでその対策のために良く使われていました。 これは、1番ピンと3番ピンが逆位相になっていて、電圧もステップダウン接続のときのホットエンド(高周波電圧の高い所)と比べて約半分になるため発振しにくくなる事を利用したものです。
現在ではトランジスタ、FET共に製品の質が向上したためあまり使われなくなったようですが自己発振を起こしたときの対策として覚えておいても良い方法だと思います。
ファイナル50、ファイナル21を除き一般のFCZコイルを送信機の出力回路に使いたい場合は、出力で100mW 以下でお使い下さい。 ファイナル50、ファィナル21を使う場合は、出力300mW以下でお使い下さい。
それ以上の電力を扱うタンクコイルには空芯コイル、またはアミドンのトロイダルコアに巻いたコイルを使用するのが良いでしょう。
水晶発振回路は周波数を安定して発振させる事ができる回路です。 しかし、発振周波数は固定されており、融通が利きません。そのためいろいろな周波数で運用しようと思うと沢山の水晶発振子を用意しなければなりませんでした。
1955年代になって「柔らかい水晶」という名前でVXOが紹介されました。 始めの頃はVXOコイルとして2つのコイルを直列にして使用していましたが、安定したコイルであればコイルは1つでもよいのでは……と考えて開発したのがFCZの「VXOコイル」です。
第●図に示す回路でバリコンとコイルを変量しますと発振周波数は第●図のように変化します。
この図から分かるようにバリコンの容量、コイルのインダクタンスを大きくして行くと、ある発振周波数から低い周波数の方にシフトしながら変化幅が広がって行きます。
しかし、この現象は水晶発振子が異なると全然違った結果をもたらします。つまり、水晶発振子によって得られる周波数が大きくなる事もあればあまり変化してくれない事もあります。
FCZコイルは周波数特性があまり良くありません。 と、いうと変な感じを受ける方がいらっしゃるかも知れませんが、普通の用途に使う場合のQLは必ずしも高いものではありません(大体、負荷を取り付けた場合のQの値は1桁です)から温度特性は不問にされるのです。
一方、VFOに使われる発振コイルはまさに「大きなQ」が要求されるものです。 ですから、そういう用途にFCZコイルを使った場合、周囲温度の変化によって発振周波数が変動する、いわゆるQRHを引き起こす事になるので、「VFOコイル」を除きVFOには使用しないでください。
コイルのQは一般的には「Qメータ」で測りますが、Qメータではインダクタンスの測定の便利の為、発振周波数を0.252、0.796、2.516、7.958、25.16MHzという数値に固定しています。
一般的には上記の周波数でインダクタンスとQを同時に測った数値がそのコイルのQであると表示されるのが普通であり、FCZコイルの公式でータの場合もそうなっております。
しかし、こうして表示されているQが実際に使われている周波数におけるQであると認識してしまうといろいろと不都合を生じる可能性があります。
7Sタイプ、10Sタイプのコイルについて可変可能な周波数におけるQの変化の測定値を第●図に示します。
このグラフから、使用するコイルとコンデンサを組み合わせた後にコアを回したときの共振周波数とそのときのQの値を読む事が出来ます。
また、各カーブの頂点を結んだ線を引き、希望する周波数と合致する場所のコンデンサの値を推計する事も出来ます。
注意していただきたい事は、実際の回路に存在するトランジスタやFET、また配線などによる浮遊容量の問題です。 この問題は特に80MHz、144MHzのコイルで発生しますが、データの中には浮遊容量に関する考慮はなされていませんので実際の回路においては同調周波数が低いほうにシフトしますのであらかじめご承知置きください。
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