ビバレージアンテナのノウハウ
追記 & まとめ

JA5DQH 奈木 昭人 (2007.Oct 23)
時が経つのは早いもので、ビバレージアンテナのノウハウの記事を書いて、数年が経ちました。

ビバレージアンテナのノウハウには、ビバレージアンテナについてかなり詳しく述べていると思いますが、文中にW8JI が使用しているコアの資料がなく不明と書きましたが、その後本人に聞いたり、DX EngineeringからW8JI デザインの マッチングトランスが発売されたりして詳しいことが分かりましたので追記としてレポートしたいと思います。

(元記事はここにあります)
まず、W8JI が9対1のマッチングトランスのコアとして使用しているFair-rite Productsの2873000202ですが、縦13.3ミリ横14.35ミリ厚さ7.5ミリという大きさで、直径3.8ミリの2つの穴が開いています。Multi-Aperture Coreと呼ばれ、横から見るとメガネみたいに見えるので、日本では一般的にメガネコアと呼ばれています。
2873000202は73mixのコアで、通常よく使われる43mixのコアの透磁率(Permeability)が850に対して、73mixのコアは2500です。そのため巻数も少なくてすみ簡単に作成できます。
コアの穴は小さいので、出来るだけ細い線を選ぶようにします。テフロン被覆の線が丈夫で耐圧の点でも優れており適していますが、エナメル線でも問題ありません。一次・二次の巻線の色を変えて巻くと分かりやすくてFBです。
写真1 9対1トランスの自作例
ハイインピーダンス側(アンテナのワイヤーとアース棒を接続する方)には6回、また、CATVなどのハードライン等75オーム系を使用するときは、5回巻きます。同軸ケーブルを接続する側は2回巻きます。
この巻数でインピーダンスレシオはそれぞれ9:1、6.25:1となります。
以前このコアをJA1JRK谷田部さんに差し上げたところ、詳細なデータを取得してくれましたので紹介します。
At 01:33 2005/12/11, JA1JRK wrote:
今晩は、奈木さん。

コアの件ですが 当局が通常使用してるアミドンのフイライトコア43材よりかなり透磁率が高いです、低い周波数用でしょうか巻数が少なくてすみますが、パワーは数ワットの通過が無難ですね、受信用であれば問題ないです。
W8JIのページ、見ました。

アイソレーション+マッチングトランスとして使用してますね。 この方法でアンテナ、テストしていませんので Newビバレージ構築時比較してみま す。
マッチングトランスはその巻数でテストしました。負荷に220+220(金属皮膜抵抗1パーセント)=440ohmの抵抗を付けて、 160m~10mまで確認しました。

リターンロス 3.5mhzで-23db(最小、SWR1.15)他160m~10mま で20db(約SWR1.2)以下です、VY-FBです。 参考にテストの写真送ります。
写真2 JA1JRKによる2873000202コアを使った実験
写真3 2873000202コアを使ったマッチングトランスの特性
W8JI TomのWeb site http://www.w8ji.com/ には多岐に渡り技術的な事が多く書かれており大変参考になります。

ビバレージに関することは、http://www.w8ji.com/beverages.htmにまとめられていますので、是非ご覧下さい。

このマッチングトランスを商品化したものが、DX Engineering http://www.dxengineering.com/  から発売されています。小型で値段も手頃ですが、そのままでは野外で使用できず、何かの箱に入れて防水をする必要があります。
写真4 DX EngineeringBFS-1内部
DX Engineeringからはいろいろな製品が発売されていますが、

ビバレージ関係は http://www.dxengineering.com/Products.asp?ID=107&SecID=32&DeptID=12 をご覧下さい。

製品のマニュアルもHTMLでもpdfでも落とせるようになっていますのでぜひ参考にされてください。
次に、ビバレージアンテナのノウハウの記事の中でもふれていますが、K1FZ BruceのKB-1というマッチングトランスを紹介します。

このマッチングトランスは、FT140-61と思われる比較的大きいトロイダルコアに4重巻きされています。

また、アンテナワイヤーとアースの間には、雷対策のための小さなギャップのあるランプが挿入されていて、親切設計です。

ハウジングは防水されたプラスチック製で、アンテナやアースを接続する軍端子も大きく、またM型のコネクタもテフロン製のしっかりしたものを採用しており、個人的にはこのマッチングトランスが気に入っています。
写真5 K1FZトランス使用のW向けビバレージ、スローピング給電部
写真6 K1FZトランスの内部
写真7 K1FZトランスは4重巻き
K1FZのWeb siteは、 http://www.qsl.net/k1fz/ です。KB-1~KB-5まで数種類のトランスが発売されています。
まとめ

9:1のマッチングトランスについてビバレージアンテナのノウハウと今回の追記でかなり詳しく述べましたが、どんなコアでも性能に大差はないと思います。しかし、少しでも究極のシステムを追求していく上でやはりこの部分は大切だと思います。

W8JI デザインでもK1FZ デザインでも共通した部分があります。それは、一次と二次でアイソレーションを取っているという点です。ビバレージのマッチングトランスとしては3重巻き(trifilar)がポピュラーですが少しでもS/Nを良くするには、一次/二次は絶縁すべきだというのがここ数年の動きのようです。アースを共通することにより、ノイズ等の回り込みが起こる可能性があるのでS/N比の悪化につながるということです。

W8JI のWeb siteやDX Engineeringのカタログ、また私の経験から今一度ビバレージアンテナをまとめると
・高さ(低さ)は気にしなくても良いが、一般的に2~3メーターが良いだろう。
・長さは(日本の場合は)基本的には張れるだけ張ることになるだろう。

しかし、下記の表に従って長さを決めると実用的である。(DX Engineeringのカタログより)
アンテナのパフォーマンスと長さの関係
エレメント長 160mバンド 80mバンド 40mバンド
36m 短すぎ ちょっと・・ グッド
72m ちょっと・・ グッド ベスト
108m まあまあ ベスト ベスト
144m グッド ベスト グッド
180m ベター グッド グッド
216m ベスト グッド グッド
上記の表からも分かるように、やはりビバレージアンテナがある程度のパフォーマンスを出すには、1波長は必要だと言うことになりそうです。

仮に180mのエレメントを張ることが出来たとすると、W3LPL Frankの資料によると、160mバンドでは110度、80mバンドでは50度位の半値角の指向性が得られることになります。

・マッチングトランスは、一次/二次は絶縁タイプが望ましい。

一次側は、同軸ケーブルに接続し、外皮はアースに落とさない。

二次側のホットエンドはアンテナエレメントへ、コールド側はアースに落とす。

・アース棒は1.5m程度の長さの物を使用し、出来れば2本以上地中に打ち込む。その際、各アース棒を1.5m以上離すと効果的である。また、40メーター程度のラジアルを2~3本、アースに接続すると良いという報告もある。

・終端抵抗は400~500オーム程度になる。

・同軸ケーブルは、シールドのきちんとした良質のケーブルを使用すること。

 CATV用のハードラインは、ビバレージアンテナの給電線として最適である。

・アンテナエレメントは、1mm程度の銅線が良い。アルミ線でも良いが、長年の腐食で接触不良になる可能性もあるので注意のこと。私は、1.6か2.0mmのIV線を使用している。重いがなかなか切れないし、切れた後はバーチカルのラジアルに再利用出来てFBである。

・アンテナエレメントのポスト(支柱)は、竹や木、塩ビパイプ等何でもよ い。また、金属製の支柱でも全く問題がないが、その場合エレメントとの絶縁はしっかり取ること。

・複数のビバレージアンテナを展開する場合、お互いのエレメントは数センチ離れれば問題ない。また、共用出来る位置に支柱を立て、支柱の数や手間を減せばよい。

私の現在のビバレージアンテナは、

W向け270m長(30度方向)。EU向け220m長(330度方向)。
AF向け250m長(270度方向)の3本です。
写真8 9M2AX田中さんとW向けビバレージ

(JA5DQHの自宅にて)
写真9 EU向け(上側)とW向け(下側)
写真10 EU向け(上側)とAF向け(下側)
以上、ビバレージアンテナに関しては、JA4LXY 藤田さん、私のビバレージアンテナのノウハウ、JA7NI 冨樫さんのビバレージで作った受信所、そして今回の追加・まとめでかなり完成度の高いものになったと思います。

しかし、これ以上望むとすれば二線式のエレメントや40メーター程度離したビバレージアンテナのアレー化等、まだまだ研究する事は多々あります。

73, Aki JA5DQH 奈木 昭人

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追加記事、まとめを寄稿していただいた奈木さん。及びデータを提供していただいた谷田部さんに感謝申しあげます。160mのDX愛好家の皆さんに参考になれば幸いです。