おさすりさん(児授け石)

通りすがりの道の辺に、全県的に分布するという道祖神をはじめ様々な石物を見るが、下井尻の某家に屋敷神となっている「児授け石」がある。これは高さ七十センチ位の立派な陽石で、手入れされた植え込みの一角に他の石物と並べて祀られているが、かつて青梅街道開通前には付近の畑の中にあったものだという。石物は「おさすりさん」と呼称され、子宝に恵まれない女性が「おひんねり」といって和紙に米を包んだおひねりを供え、男根石を撫でながら「子供を授けてください」と祈願すると不思議なことにやがて妊娠して、女としての責任を果すことができたと伝えられている。時の支配者からは、権力を高めるために労力を必要とし多産が奨励され、「産めよ増やせよ」は女性の最高の務めとされていた。「子産まざるは離縁せよ」「嫁して三年、子無きは去る」と言われた時代の女性の立場が、子孫繁栄のものであり、すべては女性の責任とされていたので、男根石が祀られて民間信仰の対象となったと伝えられている。こういった形の石物ぱ、七日市場にも、西区にも、正徳寺にもあり、昔はこの男根石にしめ飾りを張って盛大な祭りが行なわれたそうだ。陰陽石は、道祖神御神体の中にも、各 地の神社などにも見られ、陽石と陰石(陽石は男性型、陰石は女性型)が一緒に祀られている所もあるが、これらも生活上の性信仰や農作物の稔りへの祈願であったそうだ。陰陽石は全国各地にも見られ、長野県松本市の八坂神社の陰陽石、静岡県熱海市の伊豆神社境内の陽石もまた「児授け石」として、子宝に恵まれない女性たちの祈願対象となっていたといわれる。「おさすりさん」の愛称が微笑ましい石物も、その前にひざまずき、幾度か願をかけ、叶わなかった女性たちの悲しむ姿もそこに重ねて見ることが出来るのである。