東山梨地区の方言

方言とは、地域に制約された一言語であり、「地域語」とも言い換えられます。普通、書き言葉になることは少なく、もっぱら話し言葉として存在しています。ですが、今日では、交通機関の発達、ラジオやテレビによる情報網の普及、拡大化に伴い、地域ごとの、言語の特色や、地域差が失われていきつつあります。そこで、山梨市の方言について、どのようなものが残り、現在も受け継がれているのか、改めて調べてみました。山梨の方言は、県全域としては、本州東部方言に属するのですが、東部の郡内(富士北麓、桂川流域を含めた地域)は、西関東方言に属し、西部の国中(甲府盆地を中心とする地域)は、長野、山梨、静岡を含めたハヤシ方言で東海東山方言に属するというように、大きく二つに分かれています。それでは、国中に位置する山梨市では、日常生活の中でどのような言葉が便われているか、その一例をあげてみましょう。

1.よく耳にする動詞

アラケル(炭火をかきたてる) イビル(いじる) カジクル(掻く) カタル(加わる) カモウ(いじめる) クッチャグ(閉じる) クム(取り換える) ケケル(のせる) コノガル(かがむ) ササッケエス(取りちらかす) セーセースル(すっきりする) セッコム(あわてる) ツッペル(落ちる) ツヤス(はれ物のうみをだす) トブ(走る) ブチャール(捨てる) ホキダス(口から出す) ママヤク(あわてる) ムケル(ひながかえる) モモス(くすぐる) ヨッチャバル(集まる) ヨマーレル(叱られる) ヨバーレル(ごちそうになる) ワニル(ふざける)

2.意味や語勢を強めた表現の動詞

スッポナケル(投げる) ツンダス(さし出す) ツンムラカス(漏らす) トッツカメル(捕まえる) ヒッチャバク(破く) ヒッパタク(なぐる) ヒッシガル(傾く) ブッサロウ(たたく) ブンダス(出かける) ブンナグル(なぐる)

3.動詞や名詞の母音変化

オベール(覚える) キケール(間こえる) ケエル(帰る) デーコン(大根) ヘー(灰、蝋) ヘーシ(林) メー(繭) メール(見える、参る)

4.よく耳にする形容詞

ケッタリイ(だるい) コソッパイ(租い) スッチョーネー(愛想がない) ソボイ(親しみがない、みっともない) チンビイ(小さい) ニイシー(新しい) ヌクトイ(暖かい) ノブイ(図々しい) ヒドロイ(まぷしい) フザッポイ(湿っぽい) モモッチー(くすぐったい) ヤセッテー(うるさい) ヤタカシイ(騒々しい) ヤッコイ(やわらかい) ヤブセッテー(うっとうしい)

5.意味や語勢を強めた表現の形容詞

シャラッキタネー(汚ない) シャラウルセー(うるさい) シャラックヤシー(くやしい) ヒチムズカシー(難しい)

6.よく耳にする名詞

ウシンベー(牛) ウンダア(私) オカンナリ(雷) オケーコ(蚕) オシンメー(終わり) オツボキ(庭木) オデージン(全持ち) オトコシ(男の人) オハシン(裁縫) オバンシ(炊事) オヤテット(手伝ってくれる人) オンナシ(女の人) ゴッチョウ(面倒) ジブン(あなた) タチッコ(ひな) ビク(女の子) ヒテーグチ(額) ボコ(子供、赤ん坊) メメンジョ(ミミズ) モシキ(薪) モモッコゾウ(ひざ) ヤケッツリ(やけど) ヨーメシ(タ飯) ヨタ(わるいこと) ワシ(私)

7.よく耳にする副詞

イッサラ(少しも) イッソモ(少しも) イマット(もう少し) ウント(たくさん) ガトウ(えらく) カラッキシ(全く) ササラホーサラ(さんざん) ジョーブ(すっかり) ダタラ(やたらに) ヅデー(いっこうに) テンデニ(めいめいに) ナンチョウニモ(どうにでも) ハンデ(よく) バンテッコ(交替に) ムショウニ(急に) メタメタ(むやみに)

8.特別な言い方

・推量を表わす
雨ズラ(雨になるだろう) 行くズラ(行くだろう) 行っツラ(行ったでしょう) 食っツラ(食べたでしょう) 来んズラ(来ないだろう)
・禁止を表わす
行っチョシ(行くな) 食っチョシ(食べるな) しチョシ(するな) やっチョシ(やるな) ちょびちょびしチョ(調子ずくな)
・意志を表わす
行かザー(行こう) けえらザー(帰ろう) やるジャン(やろう)
・調子を強めたり、強意を表わす(動詞の命令形につく)
行けシ(行けよ) けけろシ(のせろよ) 早くこうシ(早く来いよ) やれシ(やれよ)

9.よく耳にする挨拶言葉

イイアンベーデゴイス(いいあんばいです) イーオシメリニアゴイス(よい雨です) イマ、ケータッヨ(今、帰ったよ) オツカレナッテ(お疲れさまです) オハヨーゴイス(お早うございます) ゴメンナッテ、イヤシタカ(ごめん下さい。ご在宅ですか) サー、オヨリナッテ(さあ、お寄り下さい)

こうして方言をひろってみると、公的な場面での表現を担っている「共通語」と違って、「方言」は、地域独特のものであり、文化や歴史と深くかかわっているように思えます。その意味で、まさに方言は、「生活の中で生きている言葉」といってよいのではないでしょうか。言葉は、時代とともに変化していきます。やがて、方言も、俗語として残っていくものもあれば、消えていくものもあるでしょう。しかし、私達は、地域性に富み、人間関係を円滑にする「方言」をこれからも大切にしていきたいものです。最後に、八幡地区のお年寄りから聞いた「甲州方言数え歌」を載せます。どのくらい理解できるでしょうか。

甲州方言数え歌

一つとや 人をこばかにめたこくな ぶっくじかれるからそう思え
二つとせ ふたことめには銭くりょう そんねんなんぼでもあるもんか
三つとや みっともねえからおよしねえ しゃれる年でもねえずらに
四つとせ 寄ってお茶でも飲んでけし いっぺえおじょもんが来てるから
五つとや 行っちょし来ちょしのうもねえ だちもねえからおよしねえ
六つとせ 無理もごいせん怒るのも ええかげんにしておけしねえ
七つとや なんでもどうでもおかしねえ おもっせにゃあけえしやすから
八つとせ やっちょしいいからくせになる しゃらっかまあなんでおけしねえ
九つとや こんねんあばけるぼこもねえ きっとでっかくなるずらよ
十つとや 十ねえ起きれば恵比須講 飲んだり食ったりで日が暮れた