5.4 ホエールウォッチング

 8月15日、今日はオーストラリア旅行第2の目玉であるホエールウォッチングに出かける。場所はNoosaから北へ200kmくらい行ったところにあるHarvey Bayだ。ここまで車で出かけ、そこからホエールウォッチング専用の船で、ザトウクジラが回遊しているところへ行くわけだ。
 Harvey Bayは、オーストラリアの数あるホエールウォッチングスポットでも、一番のところらしい。地球の歩き方でも紹介されていた。
 ここに集まってくるザトウクジラは、はるか遠く南極近くの海から子育てのために暖かいこのあたりまで来るとのことで、シーズンとしては8月から10月までとのこと。まさにシーズンに入ったばかりだ。それだけに鯨が見られるかどうかが気になる。Klausからの情報だと、ボチボチ集まっているとのこと。ラジオで放送していたらしい。
 ホエールウォッチングの船は、あらかじめ電話で予約しておいた。いろんな業者があるようだが、パンフレットを見て一番新しい船のところ、Spirit of Harvey bayにした。ここは遊覧時間が午前8時から12時までと、午後1時半から午後5時半までの2回あり、午後からというのにした。帰りが少し遅くなるが、Noosaから行くにはちょうどよい。ほかの業者だと、午前8時とか10時出発のところが多いので、朝がつらいのだ。
 午前9時アパートメントを出発した。距離が200kmということで、走行時間2時間半を予定しているが、いつものことで道に迷うだろうから、もう少し早く出ることにした。それに船に乗る前に昼食もとらなければならないから、12時ごろに着くようにしたい。
 Harvey bayまでの道は、Bruce Highwayを北上し、Mary Boroughで右に折れ、後は道なりに行けばいいはずだ。じつをいうと、Harvey bayまでの道のりを示した詳しい地図は持っていなかったのだ。ホエールウォッチングのパンフレットの裏についていた簡単な地図だけが頼りだ。
 とりあえず、Bruce Highwayまでの道は分かるので、問題はその後だ。とにかくHighwayを北上する。このあたりでは交通量も少ないので、Highwayといえども片側1車線だ。それにフェンスも何も無いから、自動車用道路という感じがしない。道沿いにもほとんど民家は無い。ほんと田舎へ来たという感じがする。所々に町らしきところが現われ、ガソリンスタンドや店屋が点在している。マクドナルドもそんなに多くはない。
 Mary BoroughでBruce Highwayを下り、地道を行く。ここからは標識だけが頼りだ。とにかくHarvey Bayと書かれたとおりに車を進める。
 10時半、Klausから電話が入った。こんな田舎でもちゃんと電話が入るんだから、インフラ整備は日本より進んでいると感じる。Klausの話では、湾内に鯨がたくさん集まっているとのこと。見られる確率は高いそうだ。
 午前11時半、予想していた道の間違いは無くちゃんと着いてしまった。後は、船が出る桟橋を探すだけだ。インフォメーションで場所を聞いて、すぐ分かった。
 桟橋には、ちょっとした土産物屋や、軽食が食べられるカフェテリアがある。予定より早く着いてしまったので、ヨットやボートが係留してあるところまで降りて、乗り場を確認した。
 乗船時間までまだあるが、食事を先に済ました。テーブルは桟橋の上だから、港内がよく見える。すると、パンフレットにあった船が戻ってきた。黄色い船体を見てすぐそれと分かった。乗客が降りてきたところを見ていると、かなりの日本人が乗っているようだ。すると僕らの乗る番も日本人だらけだろうか。
 オカミサンが降りてきた人たちに状況を聞いてくるといって席を立った。英語はだめだけど、日本語なら任せておけって感じだ。
 聞いてきた情報だと、しっかり見られたそうで、かなり期待が高まってきた。
 1時15分、乗船場所に移動。さっきから気になっていたのだが、日本人の親子連れ(お母さんと女の子二人)もいっしょに同じ船に乗るようだ。他には日本人の姿はない。ほっとしたような、だけどちょっと寂しいような。
 船に乗るときに名前をチェックされる。ちゃんと電話で予約を入れていたので、なんなくOK。船に乗り込んだところで写真を撮られる。帰ってきてから売りつけようという例のやつだ。これにはあっさりと乗っていしまい、帰りにAUD$6.-で買った。
 船は100人くらい乗れそうなくらい大きなもので、船の前方に席が設けられていて、座ることができる。また船首にも手すりがあるのでいろんな角度から鯨が見られというわけだ。また船内にはちょっとした売店があり、コーヒーや土産物を扱っている。乗船した際、ここでお金を払った。家族4人でAUD$180.-ファミリーパックみたいなもので、通常料金より少し割安になっている。支払いはクレジットカードで済ましたので、ちょっと時間がかかった。こんな船の上でもクレジットカードが使えるんだから、便利なものだ。
 午後1時半定刻どおり船は出る。同じくホエールウォッチングに行く他の船も出港した。外観では僕らの乗ったSpirit of Harvey bay号のほうが新しい。僕らは船首近くの席に座った。風を切って船は進む。どうだろう、時速40kmくらいは出ているのではないか。右手遠くに世界最大の砂の島、フレーザー島が見える。ここも行ってみたかった場所の一つだったが、子供連れということを考えて断念した経緯がある。というのも、Noosaからツァーが出ているが、一日中4WDに揺られて行って、途中車酔いした場合を考えると他の人に迷惑がかかるかもしれないのだ。
 船はどんどん進み、だんだんフレーザー島が近づいてきた。広い浜辺でぽつんと一台車が止まっており、釣りをしているようだ。 30分くらい行っただろうか、遠くに船が止まって鯨を見ているのが分かった。鯨はジャンプしたり、胸ビレ(鯨は魚じゃないから手というのか)を水面に叩き付けているのが見える。300mmの望遠でねらってもだいぶ遠い。あそこの船のように、この船もすぐ際で見られるのではと期待が膨らむ。
 僕はというと、すっかり座席から離れ、船の右側の手すりに子供たちと陣取りだ。





 船が出てから一時間ほど、おっ、前方に鯨発見。操舵室から船長らしき人がマイクで話している。船は速度を落とし近づいていく。オーストラリアの法律では、鯨の付近300m以内には近づけないとのことだが、鯨がこちらに近づいてくるのはかまわないとのこと。2頭または3頭でゆっくりと泳いでいる。体長はどうだろう、10m以上はあるのではないか。時々体が水面に出てくるところをカメラのシャッターを押す。どうも、自分のいるところからだと、鯨がよく見えない。乗客のかなりの数は、船首部分に集まっているので、鯨が自分の側にいればいいのだが、反対側に回り込むと、邪魔されて見えない。
 それにしてもゆっくりゆったりと泳いでいる。僕ら人間がいようが、ぜんぜん逃げる気配はない。さすがに世界一の大きさを誇る動物だ。
 ザトウクジラは、背中の部分が黒く、腹の部分が白い。背中には、海辺で見られるフジツボのようなものがぼつぼつと着いている。そしてご存知頭の上から潮を吹く穴がある。(名前はなって言ったっけ) 今僕らと平走している鯨は、ただ泳いでいるだけで、何も芸(?)をしてくれない。水面をたたく姿や、ジャンプする姿が見たいのだが。僕は望遠を構えて、なるべく大きく写るように狙うのだが、船の揺れと、鯨の泳ぎが重なって、なかなかうまく撮れない。 しばらくすると、別の群れのほうへ移動した。オカミサンはと後ろを振り返ると、操舵室のすぐ前の2階にいるではないか。僕もそこへ移動することにした。もうこうなると、子供たちともバラバラで鯨を追っかけている。子供どころではないのだ。
 2階へあがると、おお、これは見晴らしがいい。船の正面180度は視界が開けている。もっと早くにここへこれば良かった。






 船のクルーの、一人のおばさん(着ているものは短パンにTシャツでとても若い)が船首部分に行き、鯨を追っかけている。どうも、一頭の鯨が船の下を潜ったみたいだ。この船は船底に下りると、海の中が見えるようになっているが、僕は見に行かなかった。
 鯨が船の横をすり抜けるときに横を向いて泳いでいった。水中でも、白い腹が見えるので、鯨の大きさが実感できる。 鯨が船の近くで息継ぎをした。いわゆる潮吹きだ。ブォーッと、霧状の海水がかぶった。おおっ、これはすごい。鯨の息吹がこちらに伝わってくるようだ。以前テレビで、鯨を追っかけているビデオカメラマンの人が話していたが、本当に近くで潮吹くと、鯨の臭い息の匂いがするそうだ。残念ながら息の匂いは嗅げなかったが、飛沫を浴びられたことで、鯨が身近になった気がする。
 とここまでで、36枚撮りを一本既に取り終えている。フイルムはまだたっぷりある。望遠を使うということで、手ぶれしないようにISO400を使った。これなら太陽の低い冬の光で、鯨を狙っても、シャッタースピードが1/1000秒以下にできる。
 あっ、鯨が船のすぐ横でジャンプした。バシャーンという音だけで、見損なってしまった。うーん、残念。乗客の多くは「おーっ」と歓声を上げているが、見損なった僕は何も声を上げられない。今度こそはとカメラをしっかり構える。でも、300mm側にしておくと、いつどこでジャンプするか分からない鯨に狙いを付けられない。100mm〜200mmくらいにしておき、いつでも構えられるように準備する。
 すると、船のすぐ横でジャンプした。とっさに構えたが、どうもジャンプの頂点ではなく、バシャーンと落ちたあたりでシャッターが切れたようだ。いやあ、これはなかなか難しい。ある程度鯨の泳ぎを予測して、そちらのほうにカメラを構えないといけないようだ。乗客の中には8mmビデオを回している人もいる。いつ出てくるか分からないものを狙うんだったら、ビデオを回しっぱなしにしておくほうがいいかもしれない。
 その後、鯨は3、4回ジャンプし、そのつどカメラを向けたが、やはりこれは、という写真は撮れなかった。まあ、初めてのことだったし、仕方ないだろう。でも、ぜんぜん写っていないわけじゃないから、多少小さくても写っているから良しとしよう。

 どれくらい経っただろうか。ふと気がつくと太陽もだいぶ傾いている。フイルムも、3本目の終わりが近い。時計を見ると、鯨を見だしてから、2時間は経っている。その間ずーっと立ちっぱなしの、カメラを構えっぱなしだったが、そんなことすっかり忘れて、鯨を追っかけていた。
 船のアナウンスが、これから戻るようなことをいっている。さすがに少し疲れた。ずっと外で潮風にあたっていたが、さほど寒くはなかった。僕の服装といえば、半袖シャツの上に、薄手のセーター1枚だが、寒さは感じられなかった。さすがQueenslandの温暖な気候だ。
 船が全速力でHarvey bayに戻る。僕らも船の中に入ることにした。船内は人でいっぱいだ。きっとみんな今日見た鯨のことを話しているのだろう。船内のビデオでは、いろんな鯨を映している。空いている席を見つけて座ると、急に眠気が襲ってきた。隣には、日本人親子の日本語が子守り歌代わり聞こえてくる。変な話だが、外国で同胞の話し声を聞くと、どういうわけか聞き入ってしまう。どこのどういう人たちだろうか。服装を見ると、ごく普通の格好をしているので旅行者ではないようだ。お父さんがいっしょじゃないところを見ると、お父さんは仕事で、母子だけで来たのか、それともお父さんのいない家庭なのか。もしそうだとすると、母子だけでオーストラリアに住んでいるのか。 それにここHarvey bayまで何できたのだろうか。僕らはレンタカーだけど、やはり同じように車で来たのか。
 うとうとした半分眠ったような状態で、たあいも無いことを考えていると、船はいつのまにか元来た港まで戻ってきた。ちゃんと定刻5時半に船は着いた。あたりはだんだんと茜色に染まり、下りた後Contaxで船の写真を撮ろうとしたら、フラッシュマークがついた。
 桟橋の入り口まで戻り、乗る時の写真を買って、桟橋のちょっとしたお土産屋で、アメジストの原石を買った。たったのAUD$1.-、とっても安く、これを友達の土産にしよう。
 午後6時10分前、あたりはかなり暗くなってきた。さあ、これからNoosaまで帰るぞ。途中、あまり町らしいところはなかったが、いくつかマクドナルドやピザハットがあったので、そのあたりで夕食は済ませよう。
 道はかなり暗い。民家があるあたりでは街灯も点いているが、民家の無いところは真っ暗だ。ただ、雲一つ無い天気で、月だけが輝いている。空は満天の星空、といいたいが、月明かりが邪魔してそれほど多くはない。月さえなければきっとすばらしい星空だろう。
 途中の町でマクドナルドに寄った。交差点の斜向かいにピザパットがあって、そこに入ろうとしたが、満員で断念。マクドナルドで夕食だ。
 午後9時、アパートメントにたどり着いた。長い長い、一日が終わった。それにしても鯨はすばらしかった。これを見ただけでも、オーストラリアに来た甲斐があった。確か、日本でも四国のあたりでホェールウォッチングできるらしいが、もっと小型の鯨だと聞く。
 また、鯨を見るための船も、専用に建造されたもので、十分堪能できた。
 そういえば、僕らが鯨を見ていたときに、話しかけてきたおじさんとおばさんがいたっけ。どこから来たのか忘れてしまったが、同じ目的で乗り込んだ船で、たまたま隣り合っただけなのに、別れ際に「楽しいオーストラリアの旅を!」なんていってくれるなんて、うれしいじゃないか。やはりオーストラリアの国民性か、誰とでも気軽に話しかけるし、とにかく楽しんじゃおうという気持ちは、老若男女関係ない感じがする。
 余韻を残しつつも、オーストラリア第9日目が終わった。もうまもなく、僕の休暇も終わりである。 オーストラリア8日目が終わった。

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