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ヘンテナの話(3)

    (10)フックヘンテナ
 標準ヘンテナを半分に切ってフォークヘンテナにしたように、スライスッドヘンテナを半分に切ることは出来ないでしょうか?
 3-10-1図に示す「フックヘンテナ」がまさにその物ずばりの物です。 偏波面はフォークヘンテナと同じように若干複雑ではありますが、とにかく小さ く作る事ができますからHF向きのヘンテナです。

    (11)GPヘンテナ
 スライスッドヘンテナを2/3λヘンテナのように引き伸ばします。 当然、給電点はエレメントの真ん中と言うことになります。
 この「2/3λスライスッドヘンテナ」を二つ作り、3-11-1図に示すように、互いに直角になるように設置してみましょう。
 アースとして金属版を使いますが、この金属版があまり大きいと扱いが面倒になりますから3-11-2図のように小さくしてしまいます。 これでも立派な ヘンテナです。名前はグランドプレーンヘンテナを略して「GPヘンテナ」と呼びます。
 GPヘンテナのSWRの調整は給電点の高さを3-11-3図のように上下させて行います。
 本物のGPと比べるとかなり高いゲインがあり、また、QSBに強いと言う特徴があります。 指向性はほとんど無指向性です。
 430MHz、1200MHzで使うと面白いと思います。 工作も簡単ですからぜひ作ってみてください。

    (12)Hヘンテナ
 これまでお話してきましたようにヘンテナはいろいろな形に変身してきました。 この様な数々の変身に耐えられるのがヘンテナのヘンテナらしいところでも あります。
 ここでお話する「Hヘンテナ」はまさに変身の極致とも言えるものです。
 まず3-12-1図に示すように標準ヘンテナを半分に切ります。
二つになったエレメントを3-12-2図の様に反対側に接続します。
 「えっ、これでもヘンテナ?」そうです。これでもヘンテナなのです。
 電気力線の図を3-12-3図に示します。ヘンテナの動作に関して皆さん方も少しは分ってきたと思います。その動作、偏波面などについてご自分でも考え てみてください。 それにしても「ヘンテナ」ですねー。
 しかし、このままではまだHヘンテナにはなっていません。なぜならHの真ん中の横棒が二本あるのです。 この二本のエレメントのうち、給電線でない方の エレメントは、その両端は二本の縦のエレメントの丁度真ん中に接続しています。
 二本の縦のエレメントは互いに逆位相で給電されていますが、 縦のエレメントの長さは1/2λですからダイポールと同じで、その中央は電圧がゼロと言う ことになります。
 お互いに電圧がゼロであるところを電線でつないでみても何の意味もありませんね。 そこでこの線を取り去ってしまいましょう。 案の定、何の変化も生じ ませんでした。(3-12-4図)
 これでようやく、正真正銘のHヘンテナとなりました。 SWRの調整は、給電線をエレメントの上をスライドさせると言うヘンテナ独特の調整法です。
 なお、今取り去ってしまった部分は、別の見方をすれば2本の垂直エレメントの保持部として使うこともできます。
 構造を考える上でバリエーションが広がります。
 Hヘンテナの指向性特性は13-4図に示す通りです。
 ヘンテナはいつもハプニングの連続です。ここでもまた面白いことが発見されました。
 それは3-12-5図に示すように給電点をずらすことによって指向性が発生したのです。
 さらに実験を進めて、1:1の平衡バランを通して給電したところ、22dBというFB比を得ることができたのです。
 こういう給電法はバランスと言う見方からすれば問題がありそうですが、これもヘンテナの変なところかも知れません。
 その後の実験で、この指向性Hヘンテナについて次のことが分かりました。
 (1)2本のエレメントの間隔は、1/8λが良いこと。
 (2)エレメントの長さはフロント側が短く、リア側が長い方が指向特性が良いこと。
 (3)エレメント上の給電位置の調整ではSWRの変化より指向性の変化のほうが大きいこと。
 (4)SWRの調整はフロント側エレメントの長さを調整すると良いこと。
 (5)総合的調整法は、まず指向性を最大にし、その後SWRを調整すると良いこと。(3-12-6図)
 等々と、今までのヘンテナとは違った側面を見せてくれました。 このHヘンテナはヘンテナとしては1エレメントです。 しかし、何だか2エレメントのア ンテナのような気もしますね。
 とにかく指向性が出てきたと言う事はさらに発展の可能性が出てきたと言う事でもあります。
 事実、その後、Hヘンテナにリフレクタとディレクタを取り付けて指向性を強調した「4エレメントHヘンテナ」も現れました。

   (13)イカサマヘンテナ
 ヘンテナという名前からして「ふざけている」という意見を聞くことがありますが、
この「イカサマヘンテナ」はその極致といって良いでしょう。
 「いかのような形をした」と、「逆立ちヘンテナ=逆サマ」に加えて「ヘンテナはここまで変形することができる→イカサマっぽい」という意味をミックスし て付けられた名前です。
 その形は3-13-1図のようなもので、逆立ヘンテナの上の辺を無くしてしまったものです。
 SWRの調整を行うショートバーが、場所によって長さが違ってくるため調整しにくいという短所がありますが、トップが重くなりませんので、21MHzあ たりのアンテナとして活躍できると思います。 また、このアンテナ二つを結合した「ダブルイカサマヘンテナ」(3-13-2図)というアンテナもありま す。
これはV,UHF用になります。

  (14)多エレメントヘンテナ
 ゲインの高いアンテナを考える場合、「多エレメント化」ということはすぐに気が付きます。
 しかし、ヘンテナの場合その開発が主に50MHzで行われたために、その多エレメント化は形が大きくなり過ぎてしまって作りにくかったことと、1エレメ ントでも4エレメントクラスの八木アンテナに匹敵するゲインが有ったため、その多エレメント化は比較的遅くなってしまいました。 多エレメントヘンテナの 場合、一番問題となるのはその構造です。構造が立体的になるため、素人にはスマートな構造を作るのが難しかったのです。
 それでもパイオニヤたちはいました。
 主として435MHzで、いろいろな試作の結果、
 (1)エレメントの数が少ないにもかかわらず高いゲインが得られたこと。
 (2)同じゲインなら八木宇田アンテナとくらべてブームを短くすることができ、アンテナの回転半径の短縮化が可能となった。
 (3)反射等による偏波面の変化に対して寛容なこと。
 (4)移動局に対してQSB(フェージング)が少ないこと。
等が分かってきました。
 最近では大裕工業株式会社から多エレメントヘンテナが発売されるまでに発展してきました。(3-14-1図) エレメントの形状については、標準ヘンテ ナのほか、2/3λヘンテナ、1λヘンテナ等の多エレメント化が行われていますが、考え方は皆同じです。
 これら、多エレメントヘンテナを自作しようとする方は、必ず事前に標準ヘンテナで「ヘンテナの基礎」を固めてからトライするようにしてください。
 技術的には2エレメント、3エレメントのヘンテナは比較的難しいのですが、4 エレメント、5エレメントとエレメントの数を増やしていくに従い易しくなっていくようです。 もっとも、構造的にはエレメントの数が増えるにしたがって難 しくなりますが…。

  (15)MHNスペッシャル
 前項でお話したものはヘンテナと同じ形のエレメントを幾つ化並べたものでしたが、この「MHNスペッシャル」はディレクタとして線状のエレメントを使用 したものです。
 ラジエタは2/3λヘンテナを基本としていますが、その幅を広げて、帯域幅を広げています(インピーダンスが高くなります)。 その分長さが短くなって います。
 リフレクタもラジエタと同じ形状のものを使用しました。
 ディレクタは線状エレメントですが、八木アンテナのディレクタと比べるとずうっと短い物です。
 これは、ヘンテナの場合、この長さが一番ゲインを高くすることができるからです。
 このアンテナの特徴はほとんど調整らしい調整を何もしないで完成してしまうということです。

   (16)クワトロヘンテナ
 1λヘンテナには3-16-1図に示すように四つのループが有ります。 この四つのループの位相は電気力線から見る限り同じ物に見えます。
 と、すれば、この小さなループ引き伸ばして3-16-2図のように大きなループと同じ大きさにしてしまったらどうなるでしょうか?
 皆さんは「ステルバカーテン」というアンテナをご存知ですか?3-16-3図がそのステルバカーテンの構造図です。
 3-16-2図と3-16-3図は似ていますが3-16-3図では隣接するループが互いに反転しています。
 はたして、3-16-2図のようなエレメントでは位相が反転してしまって役に立たない物なのでしょうか。 とにかく今までに世の中に存在した事のないア ンテナの解説書なんて有るはずがありません。
これはやってみるしか無いのです。

その結果は、3-16-2図でも立派に動作する事が分りました。しかもゲインは1λヘンテナより明らかに向上しています。
 ループが四つあるヘンテナと言う意味から「クワトロヘンテナ」と名付けられました。
 このクワトロヘンテナはまだ出来たばかりのアンテナです。
これから多エレメント化されたりいろいろと変化していくことでしょう。

   (17)その他のヘンテナ
 ヘンテナには今までお話した物のほかまだ幾つかのヘンテナがありますが、残念ながらページ面が無くなってしまいました。 それらについてはまたいつか  機会が有りましたらお話したいと思います。

(4)ヘンテナの年表

 標準ヘンテナを開発した人達については巻頭にのべましたが、各種ヘンテナと、それらを開発した方々のお名前と開発された年を一覧表にしておきま す。
   (H)はヘンテナの略です。
 アンテナ名    開発者 年
ヘンテナ(標準)  JH1FCZ 72
フォークヘンテナ  JH1FCZ 72
ハットヘンテナ   JR1SOP 72
スリムヘンテナ   JH1FCZ 72
ファットヘンテナ  JH1FCZ 72
八木ヘンテナ    JH1FCZ 73
逆立ヘンテナ    JH1FCZ 75
バケットヘンテナ 案JH1FCZ 77 実JR1ZDT 77
パラボラヘンテナ  JH1FCZ 77
回転ヘンテナ    JH1FCZ 77
DEUヘンテナ   案JE1DEU 72 実JK1CBX 78
4パラヘンテナ   JA2TYK 78
ダブルヘンテナ   JH1HTK 78
1λヘンテナ    JH1FCZ 78
イカサマヘンテナ  JE1EHS 78
ダブルイカサマ(H) JE1EHS 78
2/3λヘンテナ  案JA7KPI 78 実JR1TTQ 79
カメノコヘンテナ 案JH1FCZ 78
トリプル逆立(H)  JH1FCZ 78
移相1λヘンテナ 案JH1FCZ 78
バルコニーヘンテナ JH1FCZ 78
逆立イカサマヘンテナJJ1AMY 79
ヒゲ付きヘンテナ  JH1FCZ 79
TTQスペッシャル  JR1TTQ 79
ハンモックヘンテナ JH1FCZ 79
デルタヘンテナ   JF3PKB 79
GPヘンテナ     JH1FCZ 79
DEU+1ヘンテナ   JA0RCM 79
ベントフォーク(H) JK1APA 79
トライハットヘンテナJH0NHJ 80
デュアルバンド(H) 藤田  80
Hヘンテナ     JR1FTE 82,JA7KPI 82
レフ板付2/3λ(H) JH1FCZ 83
4エレHヘンテナ  JA7KPI 83
2 エレメントヘンテナJA7KPI 84
(H)マッチロンビックJH1FCZ 84
多エレメントヘンテナJA1CXA 85
単一指向性HヘンテナJH1FCZ 86
デュアルバンド2/3λJA1SLR 87
スケルトンスロットとのアナロジーJA7KPI 88
2エレ1λヘンテナ JA7KPI 88
多エレ1λヘンテナ JS1NNV 89
MHN スペッシャル  JH1FCZ 91
カクヘンテナ    JL1DLE 92
クワトロヘンテナ 案JH1FCZ 79 実JH1FCZ 95
2エレクワトロ(H) JH1FCZ 95

(5)エピローグ

 どうでしたか? ヘンテナについて興味をもっていただけたでしょうか?
 以上の説明でもお分かりいただけたと思いますが、この「ヘンテナ」は100%、アマチュア無線家達によって開発されたアンテナです。 そして未だに開発 途上のアンテナでもあります。
 ヘンテナを理解し、楽しむには何と言っても自作してみることです。 出来上がったアンテナが思いのほか高性能であることにびっくりしてあなたはヘンテナ のとりこになってしまうことでしょう。 ヘンテナを作ると言う事はそれほど難しいことではありません。しかし、ヘンテナを自作しないでヘンテナを語ろうと してもそれは無理と言うものです。
 この文をお読みになった方は是非、標準ヘンテナから自作してみてください。
 そして、交信の際、「アンテナはヘンテナです」( Antenna is HENTENNA.)と、誇りを持って宣言してください。
 あなたがヘンテナの連帯の輪の中に参加してくださることをお待ちしております。
        VY TNX ES 73

 尚、参考文献として下記の物が発売されています。 共にヘンテナの開発記録です。

 ■ヘンテナ・(1972-78) \1,150(税込み) 送料300円
 ■ヘンテナ・(1978-83) ただ今売り切れ  
 ■ヘンテナ・(1984-99) \2,400(税込み) 送料350円 2冊同時の場合の〒500

発行元 228座間市東原 4-23-15 有限会社 FCZ研究所
     電話  0462-55-4232
    郵便振替 00270-9-9061
 上記へ現金書留か郵便振替で代金を送れば入手できます。
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