Cosy MUTO, JH5ESM
23 May, 2006
Revised on 2 July, 2006
2005年に欧州製トランジスタの共同購入(「欧州BJTを試食する会」)を主宰しました.
BC547,BC639,BD135,BD139及びTBA820Mを購入対象とし,約20名近くの参加者が集まりました.
本稿では,その欧州食材を使用した出力1[W]の10MHz CW送信機について述べています.
コードネームは“10MHz
TX,
BC639
push-pull
for the final stage”を意味します.
また全トランジスタが欧州のメーカー製であることから“Europa(エウロパ)”というニックネームをつけました
(英語ページをご覧になった方はおわかりと思いますが,人称代名詞には“she/her”を用いています.
これはギリシャ神話にちなんだ名前だからです).
図1 10T639pp
“Europa30” の回路図(クリックして拡大)
VFOはバリキャップで制御するSuperVXOとA級動作のバッファアンプ,出力フィルタで構成しています.
フィルタは3次定K型LPFに第2高調波用トラップを持たせています.
周波数可変範囲は10.115〜10.137[MHz]が得られました.
BC547の代替としては2SC1815などの汎用トランジスタが利用可能です.
励振段もVFOバッファと同様にA級アンプですが,エミッタ抵抗による負帰還をかけていること及びバイアス電源を安定化していることが特徴です.
利得(あるいは終段の励振レベル)はバイアスに大きく依存します.
実験の結果,バイアス電源を安定化しない場合は電源電圧を12[V]から11[V]に下げただけで出力が半分の0.5[W]にまで低下してしまいました.
フィールドでの使用を前提にしていますので,この特性ではNGです.
そこでバイアス電源を安定化することとしました.
バイアス安定化後の出力電力の電源電圧依存性は後に示します.
キーイングは励振段のコレクタ電源で行っています. 33[Ω]と33[μF]の時定数回路でキークリックを防止しています.
ここも2SC1815などで代替可能です.
終段にはC級プッシュプルを採用し,高調波除去には定K型の3次LPFを2段縦続接続し,2段目に第2高調波に対するトラップを持たせています.
BC639はTO-92型のプラスチックパッケージですが,そのままで1[W]出力することができます.
プッシュプルアンプにすることにより終段で発生する偶数次高調波はキャンセルアウトされます(これがPPを採用する大きな理由です).
代替品としては2SC2120等が利用可能でしょう.
彼女とペアにする受信機はDEGEN DE1103(愛好者3号)を想定しています.単体では選択度が不足しますので,CW用オーディオフィルタを外付けしています(冒頭の運用風景参照).
これはBCLラジオそのままですから,送信機とリモート接続する機能はありません.
そこで耳とIF段を保護するためにクリコンを設けました.
コンバータはSA612ANで簡単にすませ,10[MHz]の信号を24[MHz]にアップコンバートします.
この周波数関係は手持ちの水晶と50[W]送信テストによって決定しました.
10
[MHz]/50[W]で送信している間,すぐ脇に置いたDE1103のフロントエンドは当然それなりの電界にさらされているわけですが,24[MHz]
の受信出力にはごくわずかなノイズが出力されるだけで耳を覆いたくなるような大音量のトーンが聞こえるということはありませんでした.
VFO部,励振段バイアス及びクリコンは3端子レギュレータによる安定化電源を供給しています.
手元にはAN8005が大量にありますので(JA7HNV/秋篠さんにいただきました.ありがとうございます),これにLED2個分のゲタを履かせて約9[V]を作っています.
なおSA612ANは最大定格が9[V]ですので,この安定化電源からダイオード2個分の電圧降下を通して電源を供給しています.
ロードロップのレギュレータは非常に発振しやすいので,出力側のコンデンサは「出力端子〜回路コモン」間ではなく,図1のように必ず「出力端子〜レギュレータGND端子」間に接続してください.
そうしないと電源ラインにレギュレータの発振信号が乗ってしまい,とんでもない電波を出してしまうことになります.
送受信の切換はリレーによるセミブレークインで行っています.
この回路は私が昔から使っているものです.
今回は富士通コンポーネント(旧高見澤)のSY-12を使い,9[V]ラインの切換だけを行っています.
ディレイ時間は50[kΩ]の半固定抵抗で調整します.
BC558の代替としては2SA1015等が利用可能です.
受信アンテナラインは,1SS53のダイオードスイッチで送信時に切り離す方式としています.
1N4007で代替可能ですが,抵抗値は別途選定し直す必要があります.
全回路はICB-293(72×95[mm])上に組み,単3×8本用電池ケースと併せてタ カチのYM-150(150×100×40[mm])に入れています.
回路図ではT1〜T3にFB-801を使用するよう指示していますが,実際には秋月電子で一時期販売されその後取り扱いのなくなった太陽誘電のフェライトビーズコア(AL=0.8[μH/t2])を用いています(T1,2ではそれぞれ2個,T3では1個).このコアはJA9TTT/かとうさんから分けていただきました(この場を借りてお礼申し上げます).
T1,2へ
のトリファイラ巻きですが,私は配線識別のため通常ラッピングワイヤを使っています.しかしラッピングワイヤでは3本をよじってしまうと所定の回数が巻け
なくなりますので,ここでは撚らずに3本を揃えて巻いています.比透磁率の大きなコアですので,これで十分役目を果たしているようです.
(a)
回路基板 | (b) ケース内実装状況 |
VFOフィルタ出力,励振段コレクタ電圧波形,終段出力波形(LPF直前),送信機出力波形(LPF後)及び出力特性を図3に示します.
(a)
VFO出力(0.2V/div) | (b)
励振段コレクタ波形(2V/div) | (c)
終段出力波形(5V/div) |
(d)
送信機出力(5V/div) | (e) 出力特性 |
送信機出力波形を見る限りでは歪みはわかりません(スペクトル分析は未実施).
50[%]以上のコレクタ効率で1[W]出力が達成でき,電源電圧が9[V]に低下しても0.6[W]出力が得られていますので,電池によるフィールド運用で十分使えることが期待できます.