7T9521 “Komukai40,”yet another 7MHz QRP Transmitter

Featuring class C SEPP output stage


みどり市(JCC1612)岩宿遺跡にてフィールド運用中の7T9521“小向40”及び7R3357R“ふじみの40”

Cosy MUTO, JH5ESM
15 April, 2006
Updated on 25 April, 2006

English


1. Introduction

2005年にセラロックVXOを使用したプリミックスVFOの送信機7T2120pp を製作しました. この送信機は周波数安定度及び終段のコレクタ効率の点で十分なものではなかったため,新しい送信機を作ることにしました.

新送信機“7T9521”(このコードネームは“7MHz TX, 2SA950/2SC2120 for the final stage devices”からとっています)はバリキャップ制御のVXO及びこれまでの製作・実験で実績のあるC級SEPP回路を採用し,周波数安定度と終段効率の向上を図っています. 7T9521の実戦配備に伴い,7T2120ppは現役を引退しました.

本機のデビューは2006年2月ですが,本格運用は2006年3月29日及び4月1日の群馬県みどり市(JCC1612)移動運用からです. 4月1日の運用では0800〜1500まで,60局とQSOすることができました.

本機に“小向40”(Komukai40)というニックネームを付けました. この名称は,本機で使用した主要デバイスを開発した(株)東芝の研究開発拠点の地名に由来します.


2. 回路の説明

7T9521 schematic
図1 7T9521回路図(7003[kHz]マーカーを除く.クリックして拡大)

2.1 VFO部

VFO部はバリキャップで周波数可変させるSuper VXOとソース接地の同調増幅回路で構成しています. L1に並列接続している抵抗は寄生発振防止のために挿入してあり,cut & tryが必要です. 当初47[kΩ]にしていたのですが,可変範囲の中域で寄生振動を起こしていたので,オシロスコープで波形を確認しながら現在の値にしています.
VXOインダクタL1は7Kボビン(コアマーキング:黄緑)に50回強巻いて作りました. 固定インダクタで作る場合は33〜47[µH]が良いと思いますが,その場合,周波数可変範囲はバリキャップへの印加電圧で調整して下さい.

VFO部への電源は8[V]強の安定化電源としています. JA7HNV秋篠さんからいただいた低ドロップ3端子レギュレータAN8005がたくさん手元にありましたので(TKS秋篠さん),これにLED2個分のVFでゲタをはかせて8.4[V]を実現しています.

バッファアンプの同調回路は7[MHz]に同調させていますが,7[MHz]モノコイルではなく14[MHz]モノコイルを用いて同調特性を少し鋭くしています. 出力は第2高調波に対するトラップを設けた3次LPFに通して高調波を低減させています.

VFOの周波数範囲は7.001〜7.009[MHz]で,8[dBm]の出力が得られています.

2.2 励振段

励振段は2SC1815を用いたAB級同調増幅器です.無信号時及び励振時のコレクタ電流はそれぞれ11[mA]及び22[mA]です.
励振段の負荷インピーダンスは220[Ω],同調回路のQLは約4.5を想定していますので,同調回路は固定容量及び固定インダクタで構成しました.

キーイングはこの段のコレクタ電源を断続することによって行っています. 当初ベースバイアスを断続する方法を検討していましたが,オフ時にC級動作で0.6[V]ほどの出力が出ていましたので,電源断続に変更しました.
キークリックを防止するため,33[Ω]と33[μF]で構成する時定数回路を入れてあります.

電源電圧13.5[V],220[Ω]負荷の条件で出力電圧は13[Vpp]あり,SEPPをほぼフルスイングすることができます.

2.3 電力増幅段

プッシュプル構成を電力増幅段に用いるのは,シングルエンドアンプに比べて偶数次高調波が少ないという点で有利です. C級SEPPは私のところでは実績のある回路ですので,本機で再び採用することとしました(設計方法と実験結果はここ).

2SA950と2SC2120は1[W]級のオーディオ用途デバイスですが,HF帯でも10[MHz]以下であれば利用できます. 似たような素子は他にも見つけることができるでしょう.

高調波は14[MHz]に伝送零点を持つ5次LPFで除去しています.

2.4 キーイング及びブレークイン

キーイング系はキーイング信号生成とブレークインリレー制御をそれぞれ独立した2SA1015に受け持たせています.
リレーはトランスファー接点2回路の省電力タイプを用いています. リレー制御としたため,ブレークインはフルQSKではなくセミブレークインとしています.

2.5 リモート制御

受信機と組み合わせてトランシーブ操作するため,受信アンテナライン,受信機用電源,リモート信号及びキーイング信号を取り出すようにしています.


3. 実装

7003[kHz]マーカーを含む全回路はICB-293G(95×72[mm])に組み上げました. ケースはタカチのYM-150(150×40×100[mm])ですが,これは7T2120ppのものをそのまま流用しています.

図2 7T9521の実装写真(クリックして拡大)
front-top view top view breadboard
(a) Overview (b) Top view (c) 基板

4. 測定結果

4.1 実験評価

4.1.1 励振段

励振段の実験結果を図3に示します.
入出力特性を見てわかるように,AB級動作ですがリニアアンプではありません.リニアアンプとして使うためにはもっとアイドリング電流を流してA級動作にする必要があるでしょう.

周波数特性は,固定容量と固定インダクタで共振回路を決めうちにしていいことを示しています. 3.5[MHz]付近で出力が増大しているのは,回路が2逓倍回路としても動作することを示しています.

電源電圧に対する出力振幅は良好な直線性を示しています. この回路は100[mW]級のAM変調にそのまま使うことができるでしょう.

図3 励振段実験結果(RL=220[Ω])
driver under test driver frequency response driver frequency response driver supply voltage response
(a) 実験回路 (b) 入出力特性 (c) 周波数特性 (d) 電源電圧依存性

4.1.2 励振〜電力増幅段全体

励振〜電力増幅段の実験結果を図4に示します.

出力電力はオシロスコープで読んだ電圧のpp値を換算したものです. この実験ではLPFを挿入していませんので高調波成分も含んでいますが,波形を見る限り典型的なクロスオーバー歪だけですので極端に大きな誤差にはなっていないと思います.
電力,効率とも高調波成分も含んだ値であることにご注意下さい.

入出力特性からは,8[dBm]の入力に対し1[W]出力を得ることができ,60 [%]のコレクタ効率が達成できることがわかります.
また電源電圧依存性からは,9[V]まで低下しても300[mW]のQRPp出力が可能であることがわかります.

図4 励振〜電力増幅段の実験結果
driver and PA under test input-output response supply voltage response
(a) 実験回路 (b) 入出力特性 (c) 電源電圧依存性

4.2 実機の性能

4.2.1 VXO安定性

実機基板単体をオープンエアの室温環境において測定した,発振周波数のコールドスタートからの経時変化を図5に示します.十分な周波数安定度を有していることがわかります.


図5 VXOの安定性

4.2.2 出力特性

出力特性を図6に示します.
オシロスコープで観測する限り,歪なく1[W]出力が得られていることがわかります.
終段トランジスタには放熱器をつけていませんが,10分間の連続運転でも大きな出力低下は見られず,CW送信機として安定に動作することが期待できます.
また,電源電圧が9[V]に低下しても300[mW]QRPp運用が可能で,電池運用でも十分に遊べることがわかりました.

図6 出力特性(クリックして拡大)
(a) 50[Ω]負荷での電圧波形 (b) 連続運転特性 (c) 電源電圧依存性

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