AGCをリミッタアンプで代用した7MHz CWシングルスーパー受信機
Cosy MUTO,
JH5ESM
First written on 9 May, 2004
Revised on 28 Oct., 2007
MC3357という狭帯域FM受信機用の第2周波数変換からFM復調,オーディオLPF,スケルチ・ミューティング制御を行うICがありました.
オリジナルは廃品種となりましたが,セカンドソースのNJM3357Dが
現在も入手可能です(新
日本無線).
このICのIF段は差動増幅回路が5段直結されたリミッタアンプになっており,これをCWのIF増幅に使ってAGC不要の受信機ができないかを検討してみ
ました.
同様のICにはMC3359とかMC3362などがありますが,これらのICではFM復調に使うギルバートミキサのLO入力端子がIC内部でIF出力に接
続されているためNGです.
一方,3357の復調用ギルバートミキサのLO入力端子は内部でIF出力に接続されていませんので,外部BFOを注入してプロダクト検波として使えます.
7R3357(R)に「ふじ
みの40」というニックネームを付けました.この名前はNJM3357を製造する新日本無線(株)の主要拠点の所在地に由来し
ます.
7R3357Rの回路を図1に示します.
末尾の“R”は送信機と組み合わせるリモート制御オプション付きであることを示しています.
ペアにする送信機“7T9521”
はこちら.
アンテナ入力は1kΩのボリューム(RFアッテネータとして使用)と過大入力防止のダイオードリミッタを通った後,狭帯域のRF
BPFに入力されます.
RF
BPFは帯域幅を約150[kHz]で設計しており,巻数比1:8で50Ω入力をMC3357の入力インピーダンス
(3.3kΩ)に整合させています.
また結合容量の12pFはMC3357の入力インピーダンスとでfc≒4MHz
のHPFを構成し,中波放送の影響を少しでも回避できるように配慮しています(実際の効果は強電界地域に行ってみないとわかりませんが).
VFOはありふれた回路ですが,2番ピン〜GNDの10kΩがないとうまく発振しません.
3357の内部回路をみると局発用トランジスタのエミッタ抵抗は100kΩと非常に大きな値になっていますので,外部抵抗を接続して
エミッタ電流を増加させて発振させる必要があります.
この回路定数で7MHzのCW帯(7.000〜7.030MHz)をカバーするように設定しています.
ミキサ出力はIFTでインピーダンス変換された後,IFフィルタ(後述)を通して差動アンプが5段直結されたIFリミッタアンプに入力されます.
十分帯域を制限した後リミッタアンプを通すことでCW受信に関する限りAGCを省略することができました.
SSB受信に関しては,強力な信号(40dBu以上)についてはリミッタがかかるためうまく受信できないと思いますが,アンテナ入力を絞ってやれば何とか
なるのではないでしょうか(私の受信機ではVFOが対応していませんので確認はしていません).
リミッタがかかった状態ではRZ-SSBを普通のSSB受信機で聞いたような音になると考えられます.
IFフィルタには455kHzのセラミック振動子を用いた“世羅多フィルタ”を用いました.
世羅多フィルタについては次の記事をご参照下さい;
JA9TTT/1 加藤高広,CQ ham radio,2006年5月号,pp.126〜131, May 2006
回路はJA9TTT/1
かとうさんが設計されたCW用1kHz帯域幅の定数をそのまま用いていますが,素子数は3素子にしています.フィルタの周波数特性はこちら.
世羅多フィルタの実現にはセラミック振動子の選別作業が必要です.私の場合,かとうさんから頂いた50個とラジオデパートで買った10個の合計60個から
選別しましたが,結果として購入した10個の中から選別したセットでフィルタを構成しました.
BFOの注入レベルは10〜15mVrmsです.
ここを20mVrms以上にすると,復調出力のS/Nが悪くなるほか,大信号入力時に復調段が寄生発振を起こしてしまいNGです.
SN16913PやSA612等のギルバートミキサICと異なり,この部分のBFOレベルには注意が必要です.
図1の回路では,BFO回路Q1の
エミッタ抵抗を2分割して減衰させた出力をプロダクト検波に与えています.
一方,初段のミキサは100mVrms程度が必要です.
3357にはオペアンプが内蔵されています.
復調出力は,このオペアンプを用いて構成したfc≒1.5kHz
のオーディオLPFによって帯域制限されます.
内蔵のオペアンプは10番ピンが反転入力,11番ピンが出力で,非反転入力端子はIC内部で接地されていると考えます.
復調出力端子(9番ピン)とは必ずキャパシタでDCを切って接続してください.
10番ピンのバイアスは11番ピンからの帰還抵抗で与えます.
オーディオアンプは386です.
3357が十分なゲインを持っていますので,1番と8番ピンはオープンにして26dBで使っています.
入力を2.2kΩでシャントしていますが,これは386入力端子内部のバイアス抵抗に起因する熱雑音の高音域を低減させるためです.
また回路図には記載していませんが,386の入力ピンは100pFのセラミックコンデンサでシャントしてあり,送信波が直接飛び込むのを防止しています.
トランシーブ操作のためのリモート制御は,3357の3番ピンと12番ピンを送信時に電源ラインから接地へ切り換える方法を採用しました.
本当はフロントミキサ自身の電源を切ることができればいいのですが,3357はそのような構造ではありませんので,ミキサ直後の出力差動段の電源を切ると
同時にオーディオミュートスイッチも使用しています.
リモート制御に使用するリレーはなるべく省電流のものがいいでしょう.
私は手元にOMRON G6S-2-Yがありましたのでそれを用いましたが,富士通(旧高見澤)のSY-12などでもいいでしょう.
いずれも10〜15mA程度で動作するリレーです.
電源スイッチ周りは,内蔵電池と送信機からの電源供給を切り換えるようにしています.
パイロットランプのLEDは2色LEDにして,どちらの電源が供給されているのかがわかるようにしています.
(a) 基板 | (b) フロントパネル | (c) リアパネル |
実装の状況を図2に示します.
回路はユニバーサルボード上に組みました.
ここではICB-503を用いました.
特に注意する点というのはありませんが,同調回路周辺のキャパシタはトリマも含めてCH特性(NP0)にするのがよいでしょう.
VFOコイルはコア自身を基板に固定します.
私は100円ショップで買ったマニキュア(これはプリントパターンを描くために買ったものです)で留めましたが,接着剤でも高周波ワニスでもOKです.
またリモート制御用のリレーとVFOコイルは磁気結合しないように離しておかないと,リレーの励磁でQRHを起こします.
図2(a)の基板写真はリレーを実装する前のものですが,実機ではRF入力コイルと386の間のスペースに入れています.
ケースはタカチのYM-150を用いました(ペアにする送信機にもYM-150を用いる予定です).
写真では006P型の電池が入っていますが,実際にはAA×6の電池ホルダが入れられます.
フロントパネルは左からイヤフォン(モノラル),AF,同調,RF,電源SW及びパイロットランプです.
リアパネルは左からリモート端子,アンテナ入力,スピーカです.
リモート端子はPS/2ケーブルが使えるようにmini-DINの6Pを使っています.
本機で採用した3素子世羅多フィルタの特性を図3に示します.
DUT(被試験回路)となる世羅多フィルタはブレッドボード上に組み,50[Ω]出力のファンクションジェネレータを信号源に,また入力端に50[Ω]
フィードスルーを付けた電子電圧計を負荷として測定しました(CW用世羅多フィルタの設計は特性インピーダンスが50[Ω]で設計されていますので,スペアナやネットアナがなくても特性測定が簡単です).
(a) 阻止特性 | (b) 通過域特性 | (c) 遷移域特性 |
実際に使ってみた感じですが,早朝のヨーロッパなども聞こえますし,世羅多フィルタもよく切れます.
とはいっても帯域幅1kHzですので,あまり近接している場合には耳フィルタの併用が必要でしょう(^^;
お手軽受信機としてはいい線いっていると思います.
感度を測定してみたところ,(S+N+D)/(N+D)=10dBの条件で-10dBμ(0.3μV)でした.
ただ混変調には弱いので,夜間はRFボリュームを絞る必要があります.
周波数安定度は測定していませんが,電源投入直後の初期変動を除くと比較的安定で,通常の交信ではほとんど再同調する必要がないと思います.
この受信機の製作にあたり,セラロックの頒布をお世話いただくとともに技術資料の提供やご討論をいただきましたJA9TTT/1 かとうOMに感謝します.