対流圏伝搬

地上波伝搬では大気中の屈折率を一定として考えるが、実際には地上からの高さや大気の温度、気圧、水蒸気量によって屈折率が変化する。 特にVHF以上の周波数においてその影響は大きく異常伝搬を引き起こすことがある。

ラジオダクト

気象状態の変化によって、大気中の屈折率の減少率が非常に大きな層ができ、その中をVHF波またはマイクロ波が超屈折を示しながらあまり減衰することなく遠方まで伝わることがある。 この層のことをダクトといい、地表面近傍に形成されるものを接地性抱くと、また大気中のある高度に形成されるものをS型ダクトという。 ダクトは、高度分布における気温の逆転および水蒸気の現象が著しいばあに形成されやすい。 例えば、温暖な感想した気流が冷たく湿った海面上に流れ出すような場合や、陸上では夜間の冷却が著しいような場合にできやすい。
初夏から秋にかけて、TVとくに周波数割り当ての低いNHK総合や教育チャネルではこのダクトによる異常伝搬による電波障害がしばしば発生し、番組中に「気象条件により一部地域で受信障害が発生しています」というテロップをみかけることがある。

フェージング

電波の強さが時間的に大幅に変動することをフェージングといい、対流圏伝搬では次の3つに大別される。
ただしいずれもVHF以上の周波数において発生するものでHF以下の低い周波数では、殆ど影響ない。

  1. シンチレーションフェージング
    大気中に屈折率が時間的に不規則に変動する部分ができ、この部分によって電波が散乱して直接波と干渉して生じるフェージングで、変動の周期は数秒から数10秒程度で短い。

  2. k形フェージング
    不均一大気中で地上 h から出た電波の見通し距離はで与えられる。 等価地球半径係数 k は標準大気では 4/3 であるが、大気の屈折率分布 n(h) の関数で気象条件により変化する。 そのため見通し内では直接波と大地での反射波との干渉時にこれらの通路差が変わり、合成受信電界が時間的に変化する。 この周期は短く、周波数によって変動の様子が異なる。 見通し外では、屈折率変化による回折波が到来しこの電界強度が k の変動により変化する回折性フェージングを生じる。 このフェージングは周期が数10分以上と長く、通信に与える影響が大きい。

  3. ダクトフェージング
    ダクトは時々刻々その形を変えるので、送受信点がダクト内外に出入りするために起こり、それらにしたがって干渉性および減衰性フェージングが生じる。 周期は極めて短いが受信電界の変動は数dB〜数10dBにおよぶ。

 

大気中の減衰

電波が大気中を伝搬するとき、霧、ガスによって吸収減衰を受ける。 電波の周波数が気体分子の持つ双極子の固有周波数に一致すると、分子の共鳴により電波エネルギーが吸収され減衰が起こる。 マイクロ波帯での減衰特性を図6に示す。 水蒸気分子では22GHzおよび180GHzに、また酸素分子では60GHzおよび120GHzにおいてそれぞれ強い吸収が起こる。

なお低周波帯についてはHF帯が強い降雪により吸収減衰を受ける場合があるが、日常的な降雨や霧による吸収減衰はほとんどない。

 

図6 大気による電磁波の減衰